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ミステリの祭典

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蠅を殺せ
OSS117

作家 ジャン・ブリュース
出版日1963年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/08/23 06:44登録)
(ネタバレなし)
 ベルギーのアンヴェルス(別名アントワープ/アントウェルペン)。そこで昨年の6月から、のべ数十人のアメリカ人の失踪事件が続発していた。一番最近の該当事件は、ポーランドにてスパイの嫌疑をかけられた哲学学者の父親を引き取ろうとしていた22歳の若妻エルジー・ベックと、その息子で赤ん坊のフランキー母子の失踪だ。欧州のCIA支局は調査を開始。辣腕スパイのユベール・ボニスール・ド・ラ・パットとその同僚の赤毛美人ミュリエル・サポオリの二人を、エルジーの夫ヘルマンとヘルマンの妹キャトライン(ケイト)に偽装させ、エルジーを探しに来た家族を装って捜査させる。やがて間もなく、エルジーを含む失踪者の周辺には謎の怪人「蠅」が出没していたことが明らかになるが。

 1957年のフランス作品。
 CIAの「中央戦略局」(OSS)の要員で、コードナンバー117の青年スパイを主人公とするシリーズの一本。評者は初めてこのシリーズを読み、OSS117の本名が「ユベール・ボニスール・ド・ラ・パット」だとようやっと知った(笑)。そんなの常識じゃん、とおっしゃる猛者の方、現在の本サイトにおられますかな(笑)。
  
 ポケミスの解説(この時期のフランスものなので、当然「N」こと長島良三が担当)によると、007ブームの起爆で欧米にスパイ小説ブームが起きた50年代の半ばにあっても、長らくフランスでは固有のエスピオナージは誕生せず、そのジャンルの供給はもっぱら英米の作品の翻訳に頼っていたらしいが、その流れを変えたのがシリアス派の新人ピエール・ノールで、さらにそれに続く正統派スパイ活劇ものの、このOSS117シリーズだそうである。
 
 で、評者なんかも耳ざわりのいいシリーズ名(OSS117)には少年時代からなじみがあったが、実物を読むのは前述のようにこれが初。
 さらに本書なんかフランス作品でハエがどーのこーのというので、読む前にはタイトルだけで、ジョルジュ・ランジュランの『蠅』(電送人間ハエ男)のイメージがなんとなく頭にぼんやり浮かんだりしていた(笑)。
(もちろん実際のところは、全く何のカンケイもない。)
 
 それで実作を読んでみると、すんごい軽い。マルコ・リンゲなんかよりも、ずっと読みやすい。ほとんどカーター・ブラウンのスパイ小説版みたいなノリである(ただし、ギャグコメディの部分は味付け程度)。実際、ページ数も少ないし。
 何より主人公ユベールと同僚のミュリエルが、ほぼ上司公認の公私混同イチャツキカップルとして事件に当たるのがなんとも笑える。

 とはいえミステリ的には、いなくなった大量の失踪者の行方は? という興味で引っ張るし、途中から主人公コンビの前に姿を現す、グロテスクな怪物顔の怪人「蠅」の設定なんかもごくごくアレなものながら、一応は読者のナゾ解き興味をつつくようにはなってはいる(実はその関連のトリッキィさのネタで某クラシックパズラーを連想したが、もちろんここではあまり詳しくは言えない)。さらに最後には(中略)。

 というわけで、ストレスなく数時間で一気読みできる、そこそこの佳作。英米作品とは一味違う軽さも妙味という感じで、それなりに楽しめた。まあ、これはこれでよろしい。

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