ようするに、怪異ではない |
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作家 | 皆藤黒助 |
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出版日 | 2015年04月 |
平均点 | 4.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 4点 | 鳴門 冬扇 | |
(2015/12/07 12:26登録) 皆藤黒助の『ようするに、怪異ではない。』はミステリの本質を突き過ぎて逆に引くわ。 と書くと多分10人中10人が「またミステリのMの字も分からないラノベ厨が何か書いてるよw」と思われるかもしれませんが、まあそのセリフは最後の楽しみにとっておいてもらうとして本論に入りたいと思います。 本作は何か事件が起きると妖怪の所為にする高校の先輩に、事件の真相は人間の所為であり妖怪は関係ない、と水木しげるロードがある境港市に転校してきた主人公が明らかにする、と言う構成が続く連作です。 筆者はそれぞれの話に文句を付けようとは思いませんが、陰惨な事件はないのに何故か読後にもやもやとしたものが残るのです。それは何故だろうと考えると、第一話で作者がミステリのあられのない姿を読者にさらしてしまったからではないかと思うのです。 ネタバレあり 第一話で先輩が持っている将棋の駒を主人公が当てるゲームをする場面があります。主人公はそのすべてを当てますが、実はそれは先輩の近くにいる主人公の従兄弟が先輩にわからない合図を送っていたからなのです。 しかし最後の勝負で、その合図をある理由で出せなくなり、そこで主人公は従兄弟が合図を出せない理由を推理して、確率1/2までもっていってその勝負に勝ちます。でもこの勝ちは勝負をコイントスでつけるのを認めさせるまでは推理の力ですが、その後の展開は偶然で勝ったのです。それはミステリで有りでしょうか? そう、実はミステリのほとんどは裁判で勝てるだけの証拠を見つけることではなく、探偵役が犯人の動機や犯行方法を推理することによって犯人を特定します。しかし推理から出る類推や仮説が100%出尽くしているとは証明されていません。私たちが納得しても他に可能性があるかもしれないからです。 仮に探偵が9つの仮説のうち1つが正しいと推理しても、もう1つの仮説を見落としていて精度90%だとすると、同様の二つの推理をつなげただけで仮説の精度は81%に落ちるのです。 それを防ぐために通俗的なミステリが行うのが、 「犯人はお前だ!」と言う探偵の決め台詞と、 「みんなあいつが悪いんだ!」という犯人の自供です。 確かに犯人が自主的に罪を認めたらこのやり方でも問題はなさそうに思えます。でも犯行を認めた人物が誰かをかばっているだけの可能性もあります。そう思わせないために探偵と犯人は歌舞伎の見得のようにパフォーマンスを繰り広げている。そう思ってしまうと、たとえ非才の身で矛盾を指摘できなくても「ホントにこいつがやったのか?」と思ってしまう自分がいるようになってしまうのです。 と言う訳でこの作品を読んだおかげで「真実はいつもひとつ」と言う信念が揺らいでしまいました。 そのために評価点は「イマイチ」の4点にしましたが、話が面白くないとかそういう意味ではなく、物事を理詰めで考える主人公や自分の髪をバッサリ切っても友達をかばおうとする先輩には共感が持てますし、話の持っていき方も特に違和感は感じませんでした。 そう言えばこの本を買ったのは「『氷菓』『ハルチカ』に続く……」と言うアオリ文句のせいだったけど、『ハルチカ』シリーズは来年アニメになるのであえて読んでいません。視聴中に我慢できなくてつい読んでしまうことを切に願っています。 |
No.1 | 5点 | メルカトル | |
(2015/08/10 22:06登録) 鳥取県は境港市、主人公の「俺」皆人はこの街に引っ越してきた、新高校一年生。「俺」は特に望まずして妖怪研究同好会に入会することになった。二年生の部長である春道兎鳥はささやかではあるが不可思議な事件を、ことあるごとに妖怪の仕業と断言するが、「俺」は勿論犯人は登場人物の中にいると推理し、これらの事件を怪異などではないことを証明する。 というのが大筋のストーリーで、連作短編なのだが、どれもパターンとしては似通っている。事件そのものはそれほど魅力的なものではないが、どことなく現実離れしていて不思議さが漂う。 文体としてはライトノベルに近く、軽いノリのミステリである。まあ最近流行りの、と言ってもいいだろう。おそらく続編も書かれるのだろうが、そちらを読んでみてもいいかなと思わせるだけの何かを持っているとは思う。 |