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ミステリの祭典

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遠い接近

作家 松本清張
出版日1972年01月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 斎藤警部
(2015/07/10 02:22登録)
(ネタバレ有り)
戦争、というより徴兵、というよりその両者内部に息づく不誠実な実態への憤り響き止まぬ、魂こもったサスペンスドラマ。 不当なきっかけで自分を戦地に送り、最終的には家族全滅のきっかけを作った張本人を終戦直後の日本で捜し出し復讐を遂げるまで、主人公は諦めません。 ただ、本当にその張本人に全ての罪を被せたものかと言うと、そいつは最初のドミノを倒しただけの役回りなんだからかなり違う気がするんですけど、罪に対応する罰を与える相手は実際のところそいつしかいないわけでね、主人公がそのへんの齟齬に気付いているのかどうか、葛藤の描写はありませんけれど、国家さえ超えた巨大人間社会の蠢きが一個人に偶然もたらした甚大過ぎる悲劇、やり場の無い怒りの空回りは絶望的に切ない、切な過ぎて無茶な個人的制裁を研ぎ澄ますのに歯止めの効かせようも無いなんて。。

終結部、主人公があっと言う間に当局から追い詰められる数ページの、じりじり喰い込んで来るスリルは清張さんの真骨頂、毎度のことながら目を瞠ります。
しかし、安川って悪役というか憎まれ役が妙に魅力的で困った(笑)。 が、こいつも最後はあっさり殺されちまうんだもんなぁ~

「廣島なら、都会と違って爆撃も無いし安全じゃろ。」
「朝鮮は内地と違って戦争のセの地も無いわ。」

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