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ミステリの祭典

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飾り火

作家 連城三紀彦
出版日1989年04月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点
(2021/06/20 15:22登録)
 奥底に赤い火を秘め隠した雪の舞う北陸本線車中で知り合った女は、夫に逃げられたまま新婚旅行中の花嫁だった・・・。
 二十三年間単調にくり返し続けてきた日々に疲れを覚えていた一流企業の営業部長・藤家芳行は、誘惑に負けてその女と一夜を伴にする。彼の妻・美冴は芳行の挙動に不審を抱くとともに、息子や娘の変貌にうろたえるが、運命の日から家庭の幸せは徐々に破壊されてゆくのだった。崩壊の原因を必死に探ろうとする美冴。だが見えざる敵の魔手は、やがて彼女の元にも及んできた!
 頼るべき者も持たぬままにたったひとり、知略を尽くした壮絶な戦い。女の意地が絡み合う、舞台・TVドラマともなった愛憎の巨編。
 「毎日新聞」夕刊紙上に1987年9月1日~1988年10月31日にかけ掲載。『青き犠牲』に続いて執筆された著者初の新聞連載で、著者の作品としては7番目の長編にあたり、短編では主に『夢ごころ』『一夜の櫛』『背中合わせ』収録の諸作と時期的に被ります。
 内容的には二部構成で、プロローグの古都金沢での邂逅を経てヒロイン・藤家美冴サイドに移り、芳行に続いて長男の雄介や娘の叶美が次々に家を離れていく過程が事細かに描写。それに美冴自身の家庭教師・村木征二との浮気が加わり、更に息子の自殺未遂によって彼女の妻としての絶望は頂点に。しかし些細な事から蠢き続ける黒い影の鋳型に気付いた美冴は、逆にここから真実に迫ってゆく事になります。
 読者だけが巧みに家族に擦り寄る女・佳沢妙子の正体を知る第一部は、展開の遅さもありややもどかしいのですが、〈体のなかに鉄でできた花を隠し持つ女〉・美冴の逆襲が始まる第二部からはジェットコースター一直線。ただし主導権を握った彼女の予想とストーリーの展開は微妙にズレていき、その過程で一種のドンデン返しと言うべきものも用意されています。
 冒頭金沢で打たれる二重三重の布石はコンゲーム短編としても良質ですが、一部と二部とで被害者⇔加害者の反転を狙ったと思われる構想にはかなりの無理があり、悪女・妙子の哀れさやその共犯者たちの心情に全面的に共感するとまではいきません。特に最初の自殺者・田口敏雄周りの行為を "愛" の一言で許すのは流石に無理。後に明らかとなる〈実子の選別〉も到底許容範囲とはならないでしょう。
 当初からのグランドデザインが鮮やかに成功したとは言い切れませんが、再び晩秋の金沢に立ち戻り、夫婦の再会と〈二十三年間の長い歳月の意味〉で〆るエピローグには独自の重みがあります。目立たぬながらかなりのミステリテクニックを叩き込んだ小説で、採点は『花堕ちる』を上回り7点に近い6.5点。7点でもOKです。

 追記:本書は『誘惑』のタイトルで1990年にTBS系全12回連続ドラマ化、篠ひろ子、紺野美沙子、林隆三、吉田栄作、宇都宮隆らが出演し好評を博しました。バブル期の名作ドラマとして知られ、本編では元名子役・西尾麻里のゲロ吐きシーンもあるそうです。うげげ。

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