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ミステリの祭典

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離婚しない女

作家 連城三紀彦
出版日1986年09月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2020/07/01 22:52登録)
 『もうひとつの恋文』に続く、著者十四番目の作品集。長編では『花堕ちる』『残紅』『青き犠牲』などと同時進行。短編では『日曜日と九つの短篇』の後半作品や、『恋文のおんなたち』『恋愛小説館』『一夜の櫛』などの各収録作と、一部執筆時期が被る。
 表題中編と二短編を収録しているが、描写はいずれもあっさりめ。『離婚しない女』はもともと映画化前提の原作だったらしく、単行本出版一ヶ月後の1986年10月25日に早々と封切られた。『もどり川』『恋文』に続く三度目の映画化作品で、監督・主演は三作いずれも神代辰巳・荻原健一のコンビ。
 映画パンフレットによると「映画化不可能な話を書いてもいいですか」との作者の発言に、神代監督は「いいですよ」と即答したそうである。ただし完成したラッシュでは、原作の殺人事件はカットされシナリオも変更されている。
 表題作は二部構成。根室の水産会社社長の妻となっていた女と気象サービス・センターに勤めるその恋人が、財産目当てに殴殺した社長を車に乗せて、冬の岬へと向かう場面から始まる。岬から死体を投げ落とし、波にさらわれた事故に見せ掛ける計画だった。だが恋人の男は釧路にいるもう一人の人妻を伴侶と定め、共犯の女から全てを奪い彼女と添い遂げようとしていた。しかしこれから裏切られようとする女もまた、そのことを知っていた――
 大輪の花を思わせる艶やかな女性と平凡な家庭の主婦。全く異なるように見えながら、根底に同じものを持つ二人の〈離婚しない女〉の間で振り回される男。根室と釧路、地方線の起点と終点で繰り広げられる三角関係。そして殺人者が落ち込んだ、断罪よりも怖るべき陥穽とは?
 ありがちな展開を外した捻りが光る作品。全編を暗くくすんだ北国の風景が支配している。それは最終的に結ばれる二人が、これから歩む運命のようでもある。
 後の二篇、最初の『写し絵の女』はさすがに読み易い。『植民地の女』は月の半ばをマニラで暮らす商社マンが、帰国後フィリピン人の男に付き纏われ、妻を寝取った懺悔を迫られる話だが、ツイストよりも異国人の不気味さの方が印象に残る。
 三篇とも連城得意の反転ものだが、他の作品集と比べて出来はやや薄手で、暗めの割にはスケッチ風。

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