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ミステリの祭典

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亜愛一郎の転倒
亜愛一郎シリーズ

作家 泡坂妻夫
出版日1982年07月
平均点7.41点
書評数22人

No.2 10点 レイ・ブラッドベリへ
(2008/02/04 00:25登録)
〔掘出された童話〕 
 暗号をテーマとした「掘出された童話」は、前作「亜愛一郎の狼狽」所載の短編。
僕は暗号モノが特別好きなわけではないのだが、大層面白く思ったので、ここで感想を。
 
 まず例によって構成がすごい。
 物語の冒頭に、暗号の全文4ページが、「さあ解いて見ろ」といわんばかりにドーンと掲げられる。(「もりのさる おまつり の」)。
 そして「一荷聡司(いちに さとし)は、面白い玩具に出会った」と、物語が開始する。
 一荷は事あるごとに、この「消えるドクロ」の玩具を見せびらかすのだが、雑誌社の編集部でこれを見た探偵が、突然、目を白くして倒れかかる。
彼はこのとき、玩具の仕掛けを見破ると同時に、冒頭の暗号解読の手掛かりを得たのだ。

 それから物語の進行と共に、(作者一流の手段による伏線として)次々に解読の手掛りが示されていく。
 暗号文の綴りミス。暗号作者の経歴(!)。ひいては彼の吝嗇(りんしょく)という性格までもが、解読の手がかりとなる。(でもさすがにこの部分は、いささか強引という気もするのだが…)。
 とにかく「読者への挑戦状」こそ無いが、まさしくこの物語は堂々たる「本格もの」として構成された一編であることがわかる。

〔本作の暗号について〕
 これまでミステリで創案された暗号は、例えばポーのものは数字や記号を組合せたものであり、ドイルのものは、様々なポーズをとった「人形の絵」であった。だから暗号文自体に意味はなく、それを読んでも「ん? 何だ、これ?」としか思えないものが多かった。
 ところが本作のものは「かな文字」で書かれた、きちんと意味の通る「童話」の体をなしている。それゆえ読者は、書かれている内容から意味を読み解こうとして、まんまと作者の仕掛けたワナに陥ることになる(のだと思う)。

 次に、この暗号文が二重の構造となっていること。
 「もりのさる」の暗号の構成に気づくと、そこにもうひとつの言語体系が浮かび上がる。
 そしてこれは、「コードブック」を参照しないと解けないものなのだ。
 このため解読の手がかりをつかんだ探偵は、しっかり図書館へ行って、このコードブックを調べている。

 それから解決編で、この二重に構成された暗号文を読者に説明するため、作者は「もりのさる」にルビをふる。

 なんという驚異!

 泡坂氏は、ひらがなで書かれた「もりのさる」にカタカナの「読み仮名」(!)をふるのだ。

〔亜愛一郎の転倒〕
 全8作中、亜愛一郎は、すべての物語で「ちゃんと」転んでいます。(笑)。
 それから「砂我家の消失」では、旅先の宿で目を覚ますと、隣にあった家屋が消えているという謎を扱っています。
 E・クイーンの作品と比べると(マジシャンでもある泡坂さんとは思えないような)「ちからワザ」の印象を受けましたが、これもまた一興なのでしょう。

No.1 9点 Tetchy
(2007/10/30 19:10登録)
1作目よりもかなり好き!
1作目は理路整然としていたが、今回は泡坂氏特有の歪んだ論理が見られ、驚き指数は高い。
最後の「病人に刃物」は絶品だ!

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