2015本格ミステリ・ベスト10 本格ミステリ・ベスト10シリーズ |
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作家 | 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
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出版日 | 2014年12月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | Tetchy | |
(2015/05/06 23:42登録) 毎年云っているが本家の『このミス』よりもこちらの方がミステリ色が濃いので読むのが愉しみなのだ。 さてランキングに目を向けるともはや出せば1位の感がある麻耶雄嵩氏がこの年も『さよなら神様』で1位を獲得した。今年も『あぶない叔父さん』が刊行されたのでもしかしたら3年連続の首位獲得という大記録を生み出すかもしれない。いわゆる本格ミステリにおける名探偵のヴァリエーションを色んな作品で試みている作者のミステリ・マインドに本格ミステリ・ファンは大いに惹かれるのだろう。 そして2位が『このミス』で1位を獲得した米澤穂信氏の『満願』。この作品を以てしても麻耶の牙城は切り崩せなかったのだ。麻耶雄嵩、恐るべし。ちなみに『このミス』の2位は『さよなら神様』で首位と2位が逆転した形になっているが1位と2位の得点数がどちらも100点近く離れているところが実に面白い。 さて3位は死後再評価の気運が高まっている連城三紀彦氏の『小さな異邦人』でこの作品も『このミス』では4位でランキングが似通っているのだが、4位以降からは本格ミステリに特化したこのランキングの特色が出てくる。その作品芦辺拓氏の『異次元の館の殺人』は『このミス』10位。5位の岡田秀文氏の『黒龍荘の惨劇』は『このミス』ではランク外である。 毎年ミステリに関する特別なランキングが本書の魅力であるのだが、今回の特別企画は「みんなの愛した名探偵BEST RANKING」だった。そして驚くべきことに1位は大方の予想だったシャーロック・ホームズを押しのけ、堂々の1位に輝いたのが御手洗潔だった。つまりオマージュが本家を追い抜いてしまったのだ。その次が金田一耕助でホームズは3位。もう1つの有名な名探偵明智小五郎は大きく水を分けて8位という結果となった。因みに4位が亜愛一郎で5位がブラウン神父とこれまたオマージュが本家を追い抜いた形となっている。同点5位でエラリー・クイーンが並び、ポワロは9位となり、かなり予想外の結果となった。 御手洗の1位は数十年前ならば全く考えられなかったのだが、今ミステリを読む人たちは新本格で初めて本格ミステリに触れ、そこから新本格の旗揚げ役であった島田作品に触れて御手洗潔を知り、原初体験となっているのだろう。また10位以内に日本人作家による名探偵が4人、20位以内ならば10人と五分五分になっているのも今のミステリシーンを象徴しているようだ。いわゆる海外ミステリを読まないミステリ読者がこれほど多くなっているということだろう。ネロ・ウルフもフレンチ警部も今ではなかなか作品自体手に入れるのでさえ困難になってきているのだから。 逆に云えばこのような結果を招いた現在の出版情況の厳しさがこのランキングに表れていると云えるだろう。特に唯一国内ミステリでの警察官探偵として19位に東野作品の加賀恭一郎が上がっているのは今最も読まれているミステリが東野作品であることは周知の事実であり、いわゆるマスの大きさがランキングに色濃く反映されていることがよく解る。 また毎年恒例の特集記事の中ではその年の復刊ミステリについて語るコラムのタイトルが「復刊が少なくなっていく」とかなりネガティブな題名だったことも注目したい。さらにはミステリを題材にしたゲームもどんどん減っていることも本書では危惧されている。これはやはりスマホの普及で電子書籍が増え、さらにゲームがお手軽さを求める傾向にあることが非常に影響として大きいようだ。電子化の大きな波はこんなところにも表れている。但し最近は海外ミステリに関して云えば、50年ぶりに新訳再刊される作品や名作復活といった記念刊行も増えているので、ここに書かれているほど復刊状況に関しては悲観的ではないのだが。 そしてその海外ミステリも相変わらずの扱いの小ささなのはガッカリだ。ランキング作品の紹介文も今年もまた5位までしか挙げられておらず、最後の30ページ弱で紹介文、アンケート結果と座談会が書かれているのみである。上に書いたように少し前ならば信じられないような復刊が精力的に行われている昨今、この扱いはどうにかならないだろうか。これさえなければもっとこのムックの評価は高くなるのだが。 |