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ミステリの祭典

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いい加減な遺骸
ABC3部作

作家 C・デイリー・キング
出版日2015年02月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 6点 mini
(2016/05/03 09:59登録)
論創社からエリザベス・フェラーズ「灯火が消える前に」、C・デイリー・キング「厚かましいアリバイ」、とそして先月分が延期になっていたバート・スパイサー「ダークライト」の3冊が同時刊行される
予想通りスパイサーは無視されてますね(笑)、来月分の配本はマックス・アフォードとミニオン・G・エバハートが予定されてるんだけど、きっとアフォードは即刻登録されるでしょうがエバハートの方は無視されるでしょう、賭けてもいいよ(大笑)
フェラーズのは当初予定されていた題名「ホームパーティー殺人事件」から変更したんだな、当サイトで論創社の最近の題名の付け方に疑問が呈されていたけど、論創社の関係者の方が参考にでもされたのでしょうか?

さてアメリカ本格長編黄金時代のクイーンとキングと言えば、もちろんエラリーとC・デイリー・キングである
キングと言えばオべリスト3部作とABC3部作の二つの3部作である
今回刊行される「厚かましいアリバイ」はABC3部作の2作目でAに相当する、Cの次にAなのは、そもそも原著の順番がABC順じゃなくてC→A→Bの順だからだ
その第1作目Cに相当するのが「いい加減な遺骸」である、ABC3部作の原題は全てに韻を踏んでおり、「いい加減な遺骸」の原題も「Careless Corpse」で訳題も一応考えたってわけ、今回出た「厚かましいアリバイ」も同様

アメリカ本格長編黄金時代の申し子のようなデイリー・キングだが、それを如実に表しているのがこの時代らしい遊び心だろう
オべリスト3部作での数ページにわたる手掛かり索引などはまさにそんな感じだが、ABC3部作では流石にそれは止めてしまったが、でも「いい加減な遺骸」でも遊び心は負けていない
この作では音楽絡みという事で、各章立てが”ソナタ、主題と変奏、ロンド、フーガ”など音楽用語で溢れており、最終楽章は”コーダ”で演奏終了となる
笑ってしまうのは登場人物一覧表も”演奏者”になっている
実は音楽だけではない、音楽、物理学、化学、そして作者お得意の心理学がごちゃ混ぜとなって禍々しい雰囲気を醸し出す
雰囲気と言えば、これ孤島ものであり館ものでもあるんだな、私はこの手の舞台設定が大嫌いなのだけど、この変な雰囲気に免じて許そう(笑)
文章や展開のぎこちなさは相変わらずだけれど、これは解説の森英俊氏も言っているように、キングらしい持ち味とも言うべき魅力でもある
私はむしろプロットなどはオべリスト3部作よりは進歩している感すら抱いた、オべリスト3部作でのあの心理学者同士の解説にうんざりするような読者なら、この「いい加減な遺骸」の方が読み易いんじゃないかなぁ

そしてこの作の最大の問題点が作者も最終メモで弁明しているように、トンデモな殺害トリックなのだ、これをどう評価するか
たしかにこれは科学的に実行不能で、保守的な読者ほど受け入れ難いだろうけど、私は割と気にならなかった
例えばSF設定のミステリーなどで、こういう前提条件が成立するとした場合で解釈するというタイプのものがある
あれと同じで「いい加減な遺骸」の場合も、この殺害方法が成立するという前提条件を呑めば、推理としては誰に可能性が有ったかという問題に帰着できる訳で、別にそれでいいんじゃないかと思う
今の時代、「探偵ガリレオ」が受け入れられている時代だからこそ、この作品も余程頭の固い読者でもない限りは受け入れられるんじゃないだろうか
そもそもね、このトリックを非難酷評するのは簡単さ、でもね、キングが活躍した時代というのはトリックの払底によってアメリカン本格が袋小路に入りかけてた時代なんよ
こうした読者側のすっきりしない敗北感によって後にアメリカ本格派は衰退し、トリック至上主義に陥らなかった英国教養派に主流の座を取って代わられることになるわけ
つまりはさ、この作品を駄目だと言うのなら、それはアメリカン本格の時代的な限界と、そして本格派というジャンル自体のつまらなさを露呈しているわけですよ
だから思い切って7点進呈しようかと思った位、ただなぁ、孤島もので館ものというのが気に入らないからまぁ仕方なく1点減点だ(笑)

No.1 4点 nukkam
(2015/03/14 14:12登録)
(ネタバレなしです) オベリスト三部作を書き上げたキングが続いて発表したのはABC三部作(タイトルがABCで始まる)の本格派推理小説で、探偵役は引き続きマイケル・ロード(本書で警視に昇進)です。1937年発表の本書はその第1作で英語原題は「Careless Corpse」、この三部作はC、A、Bの順で出版されました。なお作中で「空のオベリスト」(1935年)のネタバレがあるのでそちらを未読の読者はご注意下さい。欠点と言うほどではありませんがオベリスト三部作で採用していた巻末の手掛かり脚注はなくなってしまいました。とはいえ嘘発見器(?)による尋問やロードが容疑者の有利不利を整理する推理ノートなど本格派としての謎解き要素は非常に濃厚で、さらには嵐の孤島状態や法廷場面まで用意するなど文章力の弱さを打ち消すかのようにめりはりを付けています。しかしそれらの努力もトリックで大幅減点となってしまいました。論創社版の(森英俊による)巻末解説で「どう考えても推理しえるものではなく、実効性という点でも疑問が残る」と的確に指摘しているように、SFトリックや超自然トリックや超人的トリックでもOKという読者でもない限り受け容れにくいのではないでしょうか。

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