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ミステリの祭典

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孤独な場所で

作家 ドロシイ・B・ヒューズ
出版日2003年06月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2020/08/14 21:06登録)
(ネタバレなし)
 第二次大戦が終結し、世間が落ち着きかけた時分。カリフォルニアでは若い女性ばかりを凌辱して殺害する、切り裂きジャックの再来のごとき絞殺魔が出没していた。そんななか、大戦中にアメリカ空軍のエースパイロットとして活躍したディックス・スティールは、今は、金持ちの伯父ファーガス老人に生活費をたかるばかりの自称・作家(見習い)として日々を過ごしていた。そんなディックスは大戦中に戦友だったブラブ・ニコライに再会。彼から新妻シルヴィアを紹介される。ブラブの今の仕事はロス・アンジェルス市警の刑事だった。ニコライ夫妻と交流を深めるディックスは、現在、居住するアパートに住む赤毛の美女ローレル・グレイと親しくなるが。

 1947年のアメリカ作品。「ポケミス名画座」路線の一冊で、1950年にボガート主演(ディックス役)で相応に脚色して映画化されたらしいが、その映画はまだ観ていない。
 したがってあくまで原作のみのレビューになるが、できれば映画の情報も仕入れず、ポケミスの裏表紙のあらすじも見ないで読み始めるのをお勧めする。(とはいえ……まあ、むずかしいだろうな。)
 薄皮を剥ぐようにじわじわとある事実が透けてくるが、一方でまあ、素で読んでも、その事に気づかない読者はまずいないだろう。
 が、少なくとも作者の方は演出的に、あえてまわりくどく書いているし、それゆえの座りの悪さ、居心地の悪さが奇妙なサスペンスを感じさせることにもなっている。
 主要キャラは主人公とニコライ夫妻、ヒロインのローレル、さらにブラブの上司のロス市警殺人課のボス、ジャック・ロホナー警部あたりだが、決して多くないメインキャラの頭数で260ページの紙幅をもたせる小説的技量はなかなか。夜中に読み始め、深夜に途中で一回、中断して明日に回そうかと思ったが、結局ハイテンションのままに、最後までいっき読みしてしまった。(おかげで、あー、眠い~汗~。)

 ウールリッチのクライムノワール系から、もうちょっと水気を抜いたような感触だが、フツーにミステリ小説として面白い。
 まあ70年以上前の鑑識技術で司法捜査だったから、成立した話、という面はあるが。

 ヒューズはこれで3冊目だけど、どれも一定以上に読み応えがある。「別冊宝石」に訳載されている長編も、そのうち引っ張り出してきて読んでみよう。

No.1 7点 mini
(2015/04/29 09:53登録)
明日30日に論創社からパトリック・クェンティン「死の疾走」とドロシー・ヒューズ「青い玉の秘密」の2冊が同時刊行される、全国的は連休明けまでには書店に並ぶだろう
クェンティンのはダルースシリーズ最後の未訳作だったもので、パズルシリーズのコンプリートを狙う読者はこちらだけに注目だろうが、刊行前から私の注目だったのはヒューズの方である
何故ならドロシイ・B・ヒューズは日本では不遇の大物作家だからだ

MWA賞には色々な部門が有るが、その中の1つにグラン・ドマスター賞というのが有る、名称が長いので以後は巨匠賞と呼ぶことにする
MWA賞創設の初期の頃からある賞で、第1回のクリスティから始まり、スタウト、ガードナー、クイーン、カー、シムノン、2人の両マクドナルド、スパイ小説のアンブラーとグリーンとル・カレ、エリン、ミラー、マクロイ、レナード、ウェストレイク、L・ブロック、スピレイン、フランシス、レンデル、P・D・ジェイムズ、M・H・クラーク、ホック、パーカーど錚々たる名前が並ぶ
戦後アメリカに移住したシムノンはともかく、ジョン・クリーシーやマイケル・ギルバートといった英国作家も含まれているが、ギルバートなどは弁護士としての実務的貢献も加味されたのだろうか
また活躍時期から考えるとスピレインの受賞年が1995年と遅いのは、デビューした年齢が若かったのと過去の実績を踏まえてだろうか
ちょっとおやっ!っという名前ではヒッチコックの名が有るが、これは映画監督としてというよりも、『ヒッチコック・ミステリマガジン』という雑誌が有って編纂事業でのミステリー小説との関わりが評価されてだと思う、例えサスペンス映画分野ではあってもやはり映画監督としての存在だけでは受賞理由にはならないだろうし
さてこの巨匠賞の中にはヴィンセント・スタリット、ドロシー・S・デイヴィス、最近論創社から刊行されたベイナード・ケンドリック、さらに上で述べたクリーシーといった、MWA会長職の経験者が散見される
つまり巨匠賞には単に作家としての巨匠という意味だけではなく、MWAの協会組織運営に貢献したのが受賞理由ではないか?という側面も否定出来ないのである
要するに名称は巨匠賞だが実質は”名誉会長表彰”的な意味合いも半分位は有りそうだ
くどくなったが私が何を言わんとしているかもうお分かりでしょうか?
言いたかったのはですね、MWA会長職経験者以外で巨匠賞を受賞した場合は、単純に巨匠だからが理由で選ばれたのだろうと推測出来るということで、その中の1人がドロシイ・B・ヒューズなのである
ただヒューズの場合は評論活動も加味されたのは間違いないと思えるが、それ言うとクイーンやシモンズもそうだろうし評論家としての存在だけで受賞したとは思えない
評論賞という部門は別に有るし、巨匠賞の受賞者リストをざっと見ても評論活動だけで受賞したと思える人は居ない

ヒューズは未紹介だったわけじゃなく初期の代表作「デリケイト・エイプ」がポケミスで早くから刊行されていはいた、私は未読だが「デリケイト・エイプ」がスパイ小説だったっ為に長らくスパイ小説専門作家だと誤解されてきた経緯が有り、おそらくはスパイ小説系とサスペンス小説を書き分けているのだろうけど、作者の本領であろうサスペンス作家としての紹介され方が無視されてきたのは残念だ
実はこの「孤独な場所で」も、ヒューズという作家を紹介しようという意図では無く、ポケミスの名物企画”ポケミス名画座”の1冊という映画絡みで訳されたようだ、それは解説も映画関連の話題が中心であることからも分かる
しかしながら、これが刊行されたことにより結果的にヒューズのサスペンス作家としての実力を見ることが出来たのは幸運ではある
序盤の描写力など、ヒューズがサスペンス作家として一流なのは明らかで、今回論創社から長編第1作である「青い玉の秘密」が刊行されたのは喜ばしいことだ、ジャンル的にはおそらくスパイスリラー系統かサスペンス小説のどちらかじゃないだろうか?
ただ邦訳題名については不満、これだとナンシー・ドルーっぽくてねえ(笑)、直訳すれば『青い大理石』なんだけど、”大理石”では内容と合わないのだったら素直に『青いマーブル』でも良かったような気が

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