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ミステリの祭典

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スペース・マシン

作家 クリストファー・プリースト
出版日1978年04月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2014/11/27 13:03登録)
クリストファー・プリーストと云えば『逆転世界』、『魔法』や『奇術師』など我々の価値観を超える世界観を提供し、物語世界を理解するのが困難な物が多いが本書はなんとH・G・ウェルズの代表的な2作、『タイム・マシン』と『宇宙戦争』を本歌取りし、1作のSF作品として纏めた労作なのだ。非常に知られた題材であるせいか、非常に読みやすいのにびっくりした。

しかしただの本歌取りに収まらず、そこここにプリーストならではの味付けが成されている。
また火星の描写はプリーストならではの奇想に満ち溢れている。赤い植物壁に金属のまばゆいばかりの塔などはまだしも、人間に似ながらもどこか違う火星人の風貌、半球状の透明なドームに囲まれた都市―スティーヴン・キングの作品『アンダー・ドーム』はこれに由来するのか?―に三本足で“歩く”走行物に直径7mもある雪を降らせる大砲は実は地球に向けて宇宙船を発射する巨大な発射砲であることが後に解ってくる。
さらにこの2人に途中で関わってくるウェルズ氏。哲学者と云う設定だが、彼こそ後に『タイム・マシン』と『宇宙戦争』を著すH・G・ウェルズ氏である。そう、本書はこの2つの名作が氏の体験によって創作された物としているのだ。

ところで本書は邦訳されている他のプリースト作品に比べても格段に読みやすく、またモデルとなった小説があることから非常に解りやすいのが特徴だが、その後のプリースト作品の萌芽となるアイデアが垣間見られる。
それはスペース・マシンという時空を旅することが可能なマシンが持つ特徴だ。時間を旅することは勿論だが、空間、すなわち異なる次元に移動することで存在を希薄化し、周囲から見えなくすることが出来るのだ。これは数年後に発表される『魔法』で見せたグラマーという能力の原点ではないか。さらに「瞬間移動」を得意とする2人の奇術師の戦いを描いた『奇術師』もまたここから発展した着想であるように思える。即ちこのスペース・マシンこそがプリーストがその後の作品のテーマとしている存在や実存という確かであるがゆえに不確かな物を作品ごとに色んな趣向を凝らして突き詰めていく源だったのではないだろうか?
そういう意味では私を含めたSF初心者の諸氏には名作と名高い『魔法』や『奇術師』にあたるよりもまず本書こそがプリースト入門に相応しいと思える。せっかく復刊されたこの機会を利用しない手は、ない。

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