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ミステリの祭典

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殺意の風景

作家 宮脇俊三
出版日1985年04月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 E-BANKER
(2014/02/16 21:37登録)
1985年発表の連作短篇集。
作者は故人だが日本で最も著名な鉄道旅行作家のひとり。本作が唯一のミステリー作品となる。

①「樹海の巻(青木ケ原)」=舞台は言わずと知れた富士の樹海。恋人と樹海近くに滞在している女性の身に起きた事件とは・・・?
②「潮汐の巻(鬼ケ城)」=舞台は南紀・熊野灘。“できる部下”から誘われた慰安旅行だが、案内された場所は危険な海岸沿い・・・
③「湿原の巻(シラルトロ沼)」=舞台は釧路湿原。堕ちたライバルの写真家から教示を受け、シャッターチャンスを狙い入ったのは危険な奥地の湿原だった・・・
④「カルスト台地の巻(平尾台)」=カルスト台地というと山口の秋吉台が有名だが、北九州のこちらもそこそこ有名な場所。
⑤「段々畑の巻(御三戸)」=舞台は四国・松山から下った山中。ある日訪ねてきた昔の知り合い・・・。その日から男の態度が変わり、転居、転職、そしてついに・・・
⑥「溶結凝灰岩の巻(高千穂峡)」=高千穂の地で偶然出会った学会でのライバル。一緒に連れてきた主人公の子供の一言に戦慄が走る・・・
⑦「火砕流の巻(北軽井沢)」=別荘地で頻発する放火事件。ついには主人公の男性と謎の老人以外の別荘がすべて焼け落ちる自体に・・・
⑧「古生層の巻(奥大井川)」=車の離合もできないほど細い山道が続く大井川渓谷の奥地。彼の地で偶然貴重な化石を発見した主人公に嫉妬した先輩研究者が・・・
⑨「トレッスル橋の巻(余部)」=余部鉄橋といえば、鉄道ファンには有名すぎるくらい有名な聖地。ただし、余部鉄橋自体はもう改修工事がされてしまったのだが・・・
⑩「豪雪地帯の巻(松之山温泉)」=日本有数の豪雪地帯である新潟県のある地方。とある工事現場を訪れた本社のキャリア社員は現場社員の手荒い歓迎を受けて・・・
⑪「隆起海岸の巻(鵜ノ巣海岸)」=盛岡~東京~大阪~博多にまたがる精緻なアリバイトリックを弄し、愛人を殺害しようと試みた男だったが、最後の最後で・・・
⑫「石油コンビナートの巻(徳山)」=博多発の寝台特急「あさかぜ」(※今はもうない)。徳山で降りたはずが、新幹線を使えば再度「あさかぜ」に戻ることができる・・・よくある時刻表トリックなのだが・・・
⑬「硬玉産地の巻(姫川)」=舞台は糸魚川から信州へ入った川沿いの奥地。行方不明となった姉から糾弾を受けた恋人は?
⑭「砂丘の巻(鹿島灘)」=砂丘といえば鳥取砂丘かと思いきや、九十九里浜沿いの寂しい砂浜・・・
⑮「廃駅の巻(日和佐)」=舞台はウミガメの産卵地として有名な徳島・日和佐。幻想的な一篇。
⑯「海蝕崖の巻(摩天崖)」=舞台は隠岐にある断崖。断崖好きだなぁ・・・
⑰「噴火口の巻(十勝岳)」=自分を死んだことにし、自分の葬式を見たいと思った男。気持ちは分からんでもないが・・・
⑱「海の見える家の巻(須磨)」=最後は静かな一篇。

以上18編。
作者は「中央公論」誌などの編集長を務め、退職後に鉄道紀行作家として一時代を築いた人物。
作者の文章はとにかく無駄な表現が省かれ、簡潔な描写が主体で実に読みやすいのだ。
亡くなった今でも鉄道ファンにとっては伝説の人物でもある作者。彼の唯一のミステリーということだけでも価値は十分。
ミステリーとしての出来栄えは・・・まぁ触れずにおこう。

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