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ミステリの祭典

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煉獄の使徒

作家 馳星周
出版日2009年05月
平均点3.00点
書評数1人

No.1 3点 Tetchy
(2013/11/25 23:53登録)
上下巻合わせて1,600ページに亘って繰り広げられるあのテロの物語。重厚長大が売りの馳作品の中でもこれまでで最高の長さを誇る物語は新興宗教<真言の法>の栄華と狂乱を描く。そんな物語は教団の№2の男が狂える教祖によって人生を狂わされる一部始終を、一介の、ただし凄腕である公安警察官児玉が<真言の法>を利用して警察権力の中枢へ迫っていく道のりを、そして高校を卒業してすぐに<真言の法>に入信した若者がある事件をきっかけに狂信者へ染まっていく、この3つの軸で進んでいく。

これはかつて世間を騒がせたオウム真理教の悪行を綴った小説の意匠を借りたノンフィクションと云ってもいいだろう。
そしてやはり同時代を生きてきた私にとって、ここに書かれているオウム真理教に纏わる事件の数々がフラッシュバックして脳裏に甦り、いつもよりも臨場感を持って物語に没入できた。

ただ少々解せないのは微妙に事実と異なる点があることだ。実在の呼称を避けつつも、実在の新興宗教、企業や当時の政治家のスキャンダルを擬えているだけに、後半の実際の事件との微妙なずれが作品の方向性をぶれさせてしまったようだ。こんなことならいっそノンフィクションを書いた方が良かったような気がする。

そしてさらに物語の結末が非常に消化不良だ。1,600ページと云う物量で終始語られる<真言の法>の悪行と悪徳警官児玉の、血も涙もない遣り方を読まされた上でのこのカタルシスの無さ。これは正直酷い。

今までの馳作品ならば、バッドエンドなりの物語に決着がついていたが、本書ではそれがない。単に語り手が居なくなったというだけの理由で物語が閉じられたようにしか思えない。これほど読書に費やした時間を浪費したと痛感させられたのは久々である。全く以て残念だ。

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