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ミステリの祭典

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追放 狩久全集第五巻

作家 狩久
出版日不明
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 おっさん
(2013/10/11 15:14登録)
本巻は、十数年にわたる沈黙を破り、雑誌『幻影城』で作家再デビューを果たした狩久が、逝去までのわずか二年たらずのあいだに残した、小説とエッセイ類の集成です。

編年体の収録作を、まず小説とエッセイで分けてみましょう(論創社『狩久探偵小説選』収録のものには、アスタリスクを付します)。

前者は――1.追放 2.虎よ、虎よ、爛爛と―― 一〇一番目の密室*  3.不必要な犯罪 4.らいふ&です・おぶ・Q&ナイン

後者は――5.ゆきずりの巨人* 6.我がうしろむき交友録 7.楽しき哉! 探偵小説* 8.著者略歴(『不必要な犯罪』) 9.鮎川さんとの再会

オマケとして、『幻影城』の編集長をつとめた島崎博氏インタビュー「ある探偵小説家の思い出・狩久」が収められ、巻末には、編者・佐々木重喜氏の詳細な「狩久書誌」が配されています。

小説をはさんで、“ゆきずりの巨人”江戸川乱歩にはじまり「昔のままの中川透と同じ人」鮎川哲也に終わるエッセイ群は、“キャラ”を印象づける場面、セリフの選択が、やはりこの人は根っからの作家なんだなあ、と感じさせます。
狩久ならではの<探偵文壇側面史>である、6のような文章(衝動的に「ああ、女が抱きたくなった・・・」と呟く“紅顔の美少年”山村正夫とか、もう最高w)をもっと残して欲しかったなあ。

さて、小説。
記念すべき復帰作の1は、禁忌を犯して未来の地球を“追放”され、宇宙を彷徨するカップルが、辺境の惑星で高度の知性をもつ種族と遭遇する、ファーストコンタクト・テーマのSF短編。
まさに作者の新生面なんですが、あいにく筆者、このお話は昔から苦手なんです ^_^;
ナンセンスなアイデアとシリアスなムードが、水と油に思えて仕方がない。いってしまえば「艶笑落語」を、大真面目で「寓話」にしようとしている気配が、ちょっと・・・。
ふと、「麻耶子」や「鉄の扉」(本全集第二巻所収)といった、作者の本質がストレートに現われたであろう、“狩久小説”の傑作を思います。やはり狩久という人は、その素の部分では、どシリアスな、永遠の文学青年だったんだろうなあ。ガチ・モードになると、エンタメ読者相手に、つい襟を正して読ませるような小説を、書いて(書こうとして)しまう。

そのこと自体を、否定しているわけではありません。そんなシリアス狩久の、ミステリ作家としての到達点に、3なる傑作があるわけですから。
この、長編『不必要な犯罪』に関しては、本サイトで、すでに単体でレヴューを済ませていますので、内容・評価は、よろしければそちらをご覧ください。本書では、解説担当の真田啓介氏が、見事な作品分析で、錦上花を添えています。アントニイ・バークリーやレオ・ブルースなど、英国古典探偵小説の愛好家として知られる真田氏と狩久の取り合わせは、一見、意外ですが、『幻影城』世代のファンの愛の深さを、遺憾なく見せつける内容です。

シリアス狩久の真骨頂が、『不必要な犯罪』なら、一転、軽く遊んだときの、戯作に徹したエンターテイナー狩久のトップ・フォームが、2の「虎よ、虎よ、爛爛と」といっていいでしょう。
『宝石』時代のシリーズ・キャラクター、瀬折研吉と風呂出亜久子のコンビを起用し、裏返しの密室(外部から鍵のかかった部屋の外で死体が発見され、犯人は、その部屋の中にいた?)に取り組ませたこの中編は、いまあらためて読むと、怪建築、それを作った人間が、じつは自作の建造物にことごとく仕掛けをほどこしているという設定、“抜け穴”ありきの密室趣向、といった点で、綾辻行人の館シリーズの先蹤かいな、という気もします。
でも、そんな歴史的価値(?)はおいても、そうした稚気満の世界に、さらに虎を連れてきて一緒に閉じ込める(!)という奇想をかけ合わせ、そこから人間関係を膨らませていく力量は素晴らしい。
これはもう、シリーズ過去作「見えない足跡」や「呼ぶと逃げる犬」の、単なるリフレインではありません。完全に一皮むけた狩久が、ここにはいます。
ダークさを裏地にしながらも、表面はあくまでユーモラス。論理展開を重視しつつも、肩の力を抜いて、文章は軽快に。
狩さん、これで良かったんですよ。自信をもってこのセンを伸ばせば、あなたは・・・

でも、エンターテイナー狩久が次に(最後に)向かったベクトルは、思わずアタマをかかえてしまう、短編4なんですよねw
作家・狩久の死亡通知が配られ、葬式パーティに集まった面々。
そこには、椅子にかけた、狩の死体が待ちうけ・・・いや、それは本当に作家だったカリQなのか、もう一人別にいたカリナインではないのか・・・?
って、なんじゃそりゃあ。
乱入する、世界の美女軍団。ホントに登場してしまう宇宙人!
狩久の、狩久による、狩久のための小説で、作家自身による作家論として読めば、それなりに興味深いものもありますが、でも正直、小説としては、わけがわからない。ひさしぶりに読み返してみても、これはちょっと、評価不能です。

復帰後の、短期間での著しい成熟。でも、そこにとどまることをみずから拒否し、このあと狩久はどこへ行くつもりだったのか。
この「らいふ&です・おぶ・Q&ナイン」をもとにしたという、公刊されなかった第二長編を読めばそれがわかるのか?
でもその長編って、そもそもホントに存在したのか?

え~、皆進社の<狩久全集>は、全六巻なんですね。
ということは――はい、<全集>レヴューの次回は、長らく狩久ファンを困惑させてきた、幻の第二長編(見つかりました)を取りあげることになります。
さあ、鬼が出るか蛇が出るかw

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