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ミステリの祭典

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問題物件
問題物件シリーズ

作家 大倉崇裕
出版日2013年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 E-BANKER
(2022/08/21 14:26登録)
“前代未聞の名探偵(?)犬頭光太郎登場!!」ということで、本作の名探偵は「犬」です。いや、「犬」のぬいぐるみの生まれ変わりである「犬頭(いぬがしら)」です。ということで本来の姿である「犬」を意識したセリフや行動が多数。その辺もなかなか面白い作品。テーマはタイトルどおり、「問題」を抱えている不動産にまつわる事件。
2013年の発表。

①「居座られた部屋」=バブル期にはいろいろと話題になった「地上げ屋」と「占有屋」。そんな過去の遺物を引っ張り出してきたのが本編。取り壊し予定のマンションに一部屋だけ残って出ていかない男がひとり。その男は欠かさずある新聞をとっていた。ということで判明した事実と条件を組み合わせればこういう結果になります、という解決。「犬頭」の快刀乱麻ぶりがとにかく面白い。
②「借りると必ず死ぬ部屋」=実に物騒な部屋が今回の調査対象。いかにも怪しい大家の男が登場するが、結局・・・、という展開。でもこの「動機」は結構コワイ。こんな執念があるなら他で使ってほしいものだ。
③「ゴミだらけの部屋」=いわゆる「ゴミ屋敷」はTVのワイドショー辺りでもたびたび登場するけど、今回の物件もまさにソレ。「人はなぜゴミを集めるのでしょう?」 「それは集めたいからです」ということで、なぜ「集めたい」のかが鍵となる。息子が失踪した日と同じ日に発生した警官殺人事件。当然関連があるわけで・・・
④「騒がしい部屋」=いわゆる“ドッペルゲンガー”がテーマとなる本編。自分の部屋に帰ってみると、椅子や机が勝手に動き出すわ、あるはずのない上階から大きな音が聞こえるわ・・・そりゃあ気も狂うわねえ・・・ということなのだが、そこには大いなる(いや、ちょっとした)理由が隠されていた。
⑤「誰もいない部屋」=住人がつぎつぎと失踪してしまう部屋が今回の調査対象。今まで4人の人間がいつの間にか失踪しているのだが、実はこのマンション自体にも謎が隠されていた。真相が強引すぎるけど、2022年の昨今、世間を騒がせているあの団体にもこういうことは起こるのだろうか?などと邪推するような真相。最後まで「犬頭」さんの推理力&行動力は素晴らしい。

以上5編。
なかなかのキャラです。名探偵「犬頭(いぬがしら)」。短編らしく調査過程もそこそこにあっという間に事件を解決してしまう。そして邪魔しようとする非合法な男たちはバッタバッタと倒していく! 久々に爽快感すら感じさせるキャラだった。
プロットとしては、どこかで読んだことあるようなものが多いし、辻褄合わせただけだろ!っていう展開なのだが、短編にはこういう「切れ味」と「論理の飛躍」が必要なことを作者がよく分かっていて、とにかくスイスイ読めるのが良かった。

都会の「集合住宅」っていうのは、ミステリー的にも面白いテーマなのかもしれないね。いろいろな人物が住んでいるのに、誰が住んでいるのか不明だし、分かっていてもその本性までは全然分からないし・・・そこには事件の「種」がいろいろと詰まっている可能性がある、ということなのだろう。
こんな問題物件なんて、そこかしこにあるんじゃないか?
(個人的ベストは⑤。一番無理矢理感が薄いような気がする。後は横一線かな・・・)

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