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ミステリの祭典

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ブルー・ローズ

作家 馳星周
出版日2006年09月
平均点1.00点
書評数1人

No.1 1点 Tetchy
(2013/06/26 23:44登録)
本書は馳氏による初の探偵小説と云えるだろう。元警官でバブル経済時に土地転がしをして失敗し莫大な借金を抱えたしがない探偵徳永。彼が追うのは警察官僚の娘の失踪。特に冒頭の、高い地位のある、富裕な依頼主を訪れ、失踪した娘の捜索を依頼される件はチャンドラーの『大いなる眠り』を想起させる。

しかし探偵小説の体裁は上巻まで。やはり最後はいつもの馳作品。狂気と殺戮の宴の始まりだ。

敢えて苦言を呈せば、本書は実に脇の甘い作品である。徳永が暴力に走る動機となった愛すべき存在、菅原舞を喪うことも、40を過ぎた男に起こった一目惚れからなのだ。ほんの数時間しか過ごしていない相手にこれほどまでに惚れるのか?20代の男が年上の女性に惚れるというのなら解るが、人生の酸いも甘いも経験した男が20代後半の女性に一目惚れするというのが実に解せなかった。さらに菜穂を取り戻すことの意味がない中での徳永の決死の任務遂行など物語としての体を成していない。今までの馳作品らしくない破綻ぶりだ。特に結末の菜穂との情交は一体何なんだろうか?事故で重傷を負った、もしくは命さえも危うかったと思われた菜穂が最後に見せるSM女王黒薔薇の素顔。ボロボロの徳永の股間に跨り、犯しながら犯されて物語は閉じられる。正直この結末には唖然とした。もう馳氏にはノワールを構成するネタが枯渇してしまったのだろうか。
先にも書いたがブルー・ローズとは英語で“ありえないこと”という意味でもある。私にしてみればそれは本書の内容こそがブルー・ローズそのものであった。

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