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ミステリの祭典

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悪魔の舗道

作家 ユベール・モンテイエ
出版日1969年01月
平均点4.00点
書評数1人

No.1 4点 人並由真
(2018/09/29 15:32登録)
(ネタバレなし)
 1950~60年代のフランス。「わたし」こと、社会に出たばかりの地理と歴史の新任教師エマニュエル・バルナーブ青年は、閑寂な地方都市の「テュ・ゲクラン高等中学」に奉職した。だが彼の周囲の同僚や町の人は、少ない収入のなかでとんでもなく食費のかかる大型犬を室内で飼ったり、子豚と同居したり、喪中でもないのに葬儀用の手袋を嵌めたり、さらには犬の耳のついたソクラテスの鏡像を飾ったり、と奇妙な行為をとっていた。やがてエマニュエルは、この町の住人の多くは「嬌正不能不品行者対策道徳援助地区委員会」なる謎の人物から、世の中に知られたくないおのおのの秘密を探られて匿名の手紙で脅迫され、クレイジーな行為を強要されていたと知る。「委員会」の新たな標的に選ばれたエマニュエルは脅迫される町の面々と連携し、謎の敵の正体を探ろうとするが。

 1963年のフランス作品。ポケミスの初版は1969年9月30日刊行。
「ミステリマガジン」2013年11月号のポケミス60周年記念特大号のアンケートの中で、日下三蔵氏がポケミスのマイ・オールタイムベスト3のひとつに上げていた作品。日下氏は本作を(他の二冊とともに)「強烈なサスペンスでラストまで一気に読まされただけでなく、どんでん返しでアッと声を上げてしまった」と評価してる。それで「ほほう」と思い、古書を購入して読んでみた。

 ……しかし、これはダメでしょ。エマニュエルが委員会の存在を知り、町を支配する正義の悪意に迫ろうとする前半の中途まではよいのだが、その前後からの登場人物の思考が、ことごとくおかしい。
 というのもエマニュエルが参集した被害者団体のなかには、委員会に脅迫される秘密のネタとして、実はかなり凶悪な犯罪(具体的にいうなら通り魔的に女性を連続殺害したのち屍姦)まで為した者がいる。当然、周囲の者はその事実を知って驚きおののくのだが、そこで土地の司祭が「この人はもう告解も済ませてる、自分がそれゆえにこの人の人柄を保証する」という主旨のことを語り、一同を納得させてしまう。……いや、理解できねえ! この思考と神経。
 実は、主人公のエマニュエル自身も相応の不祥事(ばれたら刑務所入り確実)を起こしており、その秘密が他の人に露見しない方が委員会の正体を追うより優先される事項じゃねーの? と思うのだが、委員会の追求のために自分の罪をあっさりと告白してしまう(真実を晒すべきか否かのドラマ的な葛藤などがあればまだ分かるが、そういう要素は微塵もない)。警戒心ってものがないの?
 それでも中盤からの主人公とある人物との成り行きはちょっと面白くなる感じだったので、このままその日下氏の言う「どんでん返し」まで行くのかな、と思いきや……いや、何がどんでん返し? サプライズ? 何もないじゃん。
 あるのはわかるようなわからないような、キリスト教と民俗社会学を背景にした作者の思弁だけ。言いたいことって、結局「××を握った者は(後略)」ということですか? 
 序盤の掴みは悪くなかったんだけどな。全体としては、フランスものにたまにある頓珍漢作品という感じであった。

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