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ミステリの祭典

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ラッフルズ・ホームズの冒険

作家 J・K・バングズ
出版日2013年03月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 おっさん
(2013/05/24 12:24登録)
ここのところ毎月、論創海外ミステリの新刊を手に取る楽しみのひとつに、帯の「刊行予定」ラインナップがあって――
今度は何が追加されてるんだろう? えっ、この作者を出すの! 待てよ、タイトル(仮題)がこうだとすると原作はアレか!? とひとり想像して悦に入っています。
驚きはしても、それなりに納得して、あまり考えこむことはないのですが、「ホームズ・パロディ集 ジョン・ケンドリックス・バングズ」という本書の(当初の)予告には、悩まされました。
え~っと、誰だっけ、この人?

恥ずかしながら、ホームズ・パロディの作者としてのバングズのことは、ハヤカワ・ミステリ文庫の、『シャーロック・ホームズのライヴァルたち③』やクイーン編『シャーロック・ホームズの災難』に既訳があるにもかかわらず、失念していました。
それでも、バングズ、ジョン・K・バングズ、どっかで目にしたことはあるような? そして思い出したのが――ああ、なんだ、「ハロウビー館のぬれごと」の作者だ (^O^)

ハヤカワ・ミステリの傑作アンソロジー『幻想と怪奇2』(当時、早川の編集部に在籍していた、都筑道夫氏の編集)に収録された、幽霊退治のこのユーモア怪談は筆者好みの一篇で、いまでも思い出すと頬がゆるみます。
そうか、あのバングズ(アメリカのユーモア作家でしたね)の本なら、こりゃ読まずばなるまい、と思っていたところへ、「ラッフルズ・ホームズの冒険」という正式な訳題が発表され、ラッフルズ譚びいきでもある筆者としては、刊行を心待ちにすることになりました。

そんな本書。
「サー・アーサー・コナン・ドイルとE・W・ホーナング氏に――ごめん」という献詞でつかみはOKです(「ごめん」という訳語がきいてますね。訳者の平山雄一さん、GJです)。
前半は、1905年に Harper's Weekly に連載され、翌年に単行本化された「ラッフルズ・ホームズ」もの10篇、

①ラッフルズ・ホームズ氏ご紹介 ②ドリントン・ルビーの印章事件 ③バーリンゲーム夫人のダイヤモンドの胸飾り事件 ④ペンダント盗難事件 ⑤真鍮の引きかえ札事件 ⑥雇われ強盗事件 ⑦ビリントン・ランド青年の贖罪 ⑧ひったくり犯にして厚顔無恥のジムの思い出 ⑨四〇七号室事件 ⑩将軍の黄金の胡椒入れ

後半は、1903年に New York Herald に連載され、1973年になって、ようやく本にまとめられた「シャイロック・ホームズ」もの10篇、

⑪ホームズ氏、霊界から通信を発する(以下、全話のタイトル冒頭に付された「ホームズ氏、」は省略) ⑫ある重大な告白をする ⑬悪巧みに失敗しつつも一山当てる ⑭歴史をひっくり返す ⑮アリバイを粉みじんにする ⑯著者問題を解決する ⑰「難事件」にとりくむ ⑱ソロモンの弁護士として活動する ⑲伝説を粉砕する ⑳最後の事件


で構成されています。

「ラッフルズ・ホームズ」は、かのシャーロック・ホームズが、アマチュア強盗ラッフルズの娘と結婚し、生まれた主人公が、なぜかニューヨークでw 探偵活動に従事しながら、自身の盗みへの欲求(祖父の血)と正義の実現(父の血)のあいだで揺れ動きます。
①は、主人公が作家のジェンキンスを自分のワトスン(ないしバニー)役にスカウトする、シリーズの導入部であり、②もまた、彼が両親のなれそめをジェンキンスに物語る、背景説明のエピソード(シャーロック・ホームズとラッフルズ、ご本人たちが登場するという意味では、きわめてまっとうなパスティーシュ)なので、上述のシリーズの特色が明確に打ち出されるのは、③からになります。
そして、④の幕切れで、相方のジェンキンスが思いきった行動に出ることで、コンビの関係性が決定され、お話は俄然面白くなってきます。

もっとも、トリッキーな盗みの手口とか謎解きの妙とか、そういった面でミステリ史に残るような傑作は、一篇もありません。
集中では、ラッフルズ・ホームズに明確な敵役を対峙させ、ユーモアとサスペンスをいい按配でブレンドした、⑥(アリバイ・トリックw のオマケつき)や⑨(コンゲームしてます)を筆者は買いますが、基本的には、ニコニコしながら読んで、あとには何も残らない、気軽なエンタテインメント。
この連作は、それ以上でも以下でもありません。でも、それをきちんと書けるのもプロ。
たまにはいいですよ、こういうのも。“本格”とか“ハードボイルド”ばかり読んでいたのでは、息がつまりますからw

「シャイロック・ホームズ」のほうは、死後、「黄泉の国」で古今東西の有名人と暮らす名探偵が、現世の作家「私」のもとへ(スチーム暖房機を使って!)送ってきた、かの地での冒険譚の数かず。
前記、『シャーロック・ホームズのライヴァルたち③』や『シャーロック・ホームズの災難』に採られている、⑯(「シェークスピア」作品の真の作者さがし)が、まずは代表作でしょうね。
ただ「ラッフルズ・ホームズ」にくらべると、全体に隔靴掻痒感があるのは、モチーフになっている人名や故事来歴への、こちらの親しみの薄さによるものか。訳者は丁寧に註を付けてくれていますが、それで「理解」はできても、笑えるかどうかとなると・・・微妙。
そんななか、個人的にツボだったのは、霊界でホームズのライヴァルになる、先輩探偵ルコックのあつかい。これがヒドイんだw
ホームズの足を引っ張るためには手段を選ばず――最後は必ずギャフンと言わされるネタキャラになってます。
いや~、ガボリオが生きててこれを読んでたら、絶対に抗議されてたぞwww

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