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ミステリの祭典

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我が屍を乗り越えよ
ネロ・ウルフ

作家 レックス・スタウト
出版日1958年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 クリスティ再読
(2024/03/26 14:22登録)
ある朝、ウルフの事務室に訪れた若い女は、ウルフの娘がダイヤモンド盗難の嫌疑を受けてピンチであると救援を求めた。友人の若い女とウルフの娘は、モンテネグロからの亡命者で、今はフェンシング教室の先生をして過ごしているのだが、そのロッカールームでダイヤモンドが盗まれたのだ。娘である証拠書類を提示されたウルフも、不本意ながら見過ごすことはできずに、フェンシング教室にアーチーを派遣した。ところが、その教室で殺人が起きた!被害者はイギリスの諜報員らしい...

となかなかキャッチーな話。これにさらに、ウルフの前半生が断片的に明かされたり、戦前のユーゴスラビア王家とナチスドイツ、そしてアメリカ財界の結託など、謎解き以外での興味が大きい作品。第二次大戦が始まるあたりの作品で、スタウトの反全体主義の政治的主張が表れた作品でもある。政治圧力のために愚痴をこぼすクレーマー警部がなんかかわいい(苦笑)

まあだけど、どうもテンポの悪い話で、しかも、謎解きがあまり大した話でもないのが、ミステリとしてはいまひとつ。キャラ小説としてはほんと安定しているし、後年に書かれた、ウルフがユーゴに乗り込んで暴れる異色作「黒い山」の前日談でもあって、見逃せない話でもある。ネタバレすると嫌だから、本作から読むべきだろうな。

まあウルフの娘、って言っても、孤児を引き取った養女。ナチと結託した王党派vs反セルビア的なモンテネグロ国民vsセルビア人主体の中央政府という三つ巴のややこしい政治情勢の中で、ナチスやアメリカ政府などの思惑が渦巻く暗闘に...なんだけど、中途半端感も否めない。そこらへんのユーゴ政治情勢なんて日本人のほとんどが馴染みないよ〜〜評点はこんなところで勘弁して。

(けどさ「私は感情が入りこまないように、こうして脂肪をつけているのだよ」と言い放つウルフって、意外なくらいハードボイルドなキャラだと思うんだ)

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