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ミステリの祭典

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会津斬鉄風

作家 森雅裕
出版日1996年12月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2021/02/12 14:14登録)
 1996年刊。『平成兜割り』以来五年ぶり四冊目の作品集で、安政三(1856)年から明治元(1868)年まで、幕末激動期の会津藩や新選組を軸に、河野十方翁春明(金工)⇒古川友弥こと十一代和泉守兼定(刀工)⇒佐川官兵衛⇒唐人お吉⇒そして新選組副長土方歳三と、主人公を数珠繋ぎに交代させてゆくリレー形式を採っている。歳三の愛刀として最も有名なのも、会津藩のお抱え刀工だったこのノサダこと十一代兼定である。
 収録作は 会津斬鉄風/妖刀愁訴/風色流光/開戦前夜/北の秘宝 の五篇。黒船来航で世界各国と各種条約を締結、安政の大地震で混乱するなか講武所・海軍伝習所が開設され、大砲鋳造・洋式銃訓練・砲台建設など手探りながら近代化を進めていた頃から時代は急変。後半三篇では鳥羽・伏見の戦いから函館戦争に至る、滅びゆくもの達の姿が描かれる。
 妖刀騒ぎに隠れた密偵事件・坂本龍馬暗殺の真相・薩長と幕府軍、正面衝突直前での新夫入れ替わりとミステリ的な趣向はあるが、全般に枯れた雰囲気で黄昏れており、読んでいてそこまで楽しくはない。中では二つの鍔の真贋を巡って江戸の老金工と会津の若刀匠、職人の意地が火花を散らす表題作の練れた飄逸さと、松前藩重代の家宝の正体を五稜郭の戦い前の土方歳三が解く、変形の宝探し物「北の秘宝」が面白かった。だがトータルでは、森氏の作品中上位に来るものではない。この年4月『自由なれど孤独に』で編集者と衝突した後、8月に例の問題本『推理小説常習犯』が刊行されているので、あるいは後始末に絡む著者の心境が出ているのかもしれない。
 なお秘宝を齎した慶長十四(1609)年の花山院忠長の配流は、山田明裕『へうげもの』にも取り上げられた、猪熊事件(後陽成天皇期の公卿乱交スキャンダル)が原因。陰と陽で真逆だが、この両者には時代の切り口の面白さで通底するものがある。

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