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ミステリの祭典

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魔法少女まどか☆マギカ The Beginning Story

作家 虚淵玄
出版日2011年12月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 おっさん
(2013/02/04 15:29登録)
『ミステリマガジン』今年の3月号は、007特集。ウンベルト・エーコの評論が白眉の、まことに読みごたえある内容ですが・・・今回のマクラに使うのは、同号のアニメ・レビュー欄なんですw

アニメ・プロデューサーの里見哲郎氏が、いま手がけている『ジョジョの奇妙な冒険』(原作・荒木飛呂彦)を紹介するにあたって――アニメとSFの親和性の高さに比べると、アニメとミステリの相性はもうひとつ、ということを書かれています。
少ない成功例は、大別すると「捕物帳」タイプ(代表例『名探偵コナン』)か「(うまくいった)乱歩の通俗物」(代表例『NOIR』や『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』)になるだろうと。そして『ジョジョ』は後者に属する、というわけです。独特の“現場感覚”が新鮮ですね。

でも里見氏にして、どこか本格ミステリ至上主義(理想は、純度の高いパズラーをアニメでやること、的な)にとらわれている気がします。現代日本のミステリ・ファンは、もっと多彩な試みを受容し、評価できているではありませんか。
もちろん、本格として評価されるようなアニメをつくる、という理想があってもいいのですが、筆者的には(ことさらアニメでまでそれを見たいとは思わないので)、そうしたコンプレックス(?)とは無縁に、もっと柔軟に、仕掛けと趣向を凝らしたオリジナル・ストーリー、その意外性と説得力のバランスでミステリ・ファンをも驚かしてやる、というアニメ作家に出てきてほしい。

里見氏が、『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』、『新世紀エヴァンゲリオン』などと並べて、エポックメイキングなアニメのSFサイドの例として挙げている『魔法少女まどか☆マギカ』(TVシリーズ全12話。2011年度作品。映画化展開もあり)は、筆者にとってまさに、そういう意味でのミステリ・マインドあふれる傑作でした(ここから本題)。

でも。
中学二年生の女の子の前に、言葉をしゃべり、「僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ」と言う、奇妙な白い生き物が現われる――といったお話は、ある程度アニメ耐性の無い人には敷居が高いかな?
ズルをして、有名人の助けを借りましょう。
同作品が、日本SF大賞の候補になったとき(受賞作は、上田早夕里『華竜の宮』)の、宮部みゆき氏の選評を抜粋します。

 「――この作品は、よき企みがあるミステリーとして幕を開け、それぞれに自己実現を希う少女たちの友情物語として進行し、終盤でミステリーの謎解きのために用意されていたSF的思考が披露されるという、実に贅沢な造りになっています」(引用終わり)

展開の“意外性”においても群を抜いた作品なわけですが、単に引っ繰り返しのための引っ繰り返しではなく、“真相”を知って振り返ったときに、きちんと辻褄が合うように、細部まで計算されたプロット(たとえば、主人公サイドの敵となる、「魔女」と使い魔の関係性――その設定がもつ意味)が見事です。
それまで思い込まされていた“世界”が、ガラガラ崩れ落ちるような、中盤6話の“種明かし”に至る段どりの巧さ!

エモーショナルな演出(いやマジで泣けます、心が震えます)の土台になっている、本当はきわめてロジカルな作劇を確認するには、脚本を読むにしくはないわけですが、一見、外伝的なタイトルの本書(角川書店)こそが、じつはそんな『魔法少女まどか☆マギカ』のTV版全シナリオを収録した一冊なのです。オマケとして、脚本家・虚淵玄(うろぶちげん)と新房昭之監督の対談などもあり、これまた、すこぶる興味深い。

アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』が大傑作たりえたのは、音楽、美術、そして演技面と、さまざまな才能の結集、その相乗効果によるものであることは、間違いありません。しかし、すべてはこの、まれに見る脚本(ホン)からスタートしているのも事実。

本書は厳密には、角川書店のアニメ誌『ニュータイプ』編集部によるバラエティ・ブックですが、全話のストーリーをひとりで構築しきった虚淵玄の作家性に敬意を表し、あえてその著として「SF/ファンタジー」に登録しました。

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