ラヴクラフト全集 (5) 神殿 ナイアルラトホテップ 魔犬 魔宴 死体蘇生者ハーバート・ウェスト レッド・フックの恐怖 魔女の家の夢 ダニッチの怪 |
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作家 | H・P・ラヴクラフト |
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出版日 | 1987年07月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | クリスティ再読 | |
(2020/10/24 21:08登録) ラヴクラフト全集も通常巻は5巻まで。6巻はファンタジー色が強いし、7巻は資料的だし...お待ちかねの「ダニッチの怪」を収録の巻である。まあこれには、創元の「重複収録回避」のクセが影響しているんだろう。「ダニッチ」は「怪奇小説傑作集3」に「ダンウィッチの怪」で収録されているからねえ。 長めの作品はあと「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」「レッド・フックの恐怖」「魔女の家の夢」なんだけど、これらがものの見事に面白くない。安めでマンガっぽいか、怪異に巻き込まれる主人公の主観ばかりで動きがなくなって...で、良さが出てないない。 としてみると「ダニッチ」の良さは、クールな客観描写の良さなんだと思う。ラヴクラフトって語り手の「語りの仕掛」が積極的に出た作品がいい印象もあるけど、「ダニッチ」は抑えた客観描写が、いい。ウィルバーが図書館で死ぬ描写の、 しかし腰から下が最悪だった。ここでは人間との類似がまったく失われ、紛れもない怪異なものになりはてていたからだ。皮膚はごわごわした黒い毛にびっしりと覆われ、腹部からは緑がかった灰色の長い触角が二十本のびて、赤い吸盤を力なく突出していた。その配置は妙で、地球や太陽系にはいまだ知られざる、何か宇宙的な幾何学の釣合にのっとっているようだった。 微に入り細に入りの視覚的描写のクールさが印象に残る。番犬に襲われて死んじゃうような情けないモンスターなんだけど、この死にざまが作品の頂点になっているのが面白いところ。まあだからその後の「見えない怪物」をやっつけるシーケンスはオマケみたいなもの。「見えない怪物」だからこそで、有線放送電話(懐かしい)による声だけのレポートがうまくマッチしてはいるけどね。 「ダニッチ」は評者のラヴクラフト三大名作の一角だから、別格の面白さだけど、この短編集だと「神殿」や「ナイアルラトホテップ」に、散文詩的な良さがある。スタティックな話だと、ラヴクラフトの筆は冴える。「神殿」は「ゴードン・ピム」のオマージュじゃないかな。 (「魔女の家の夢」って、非ユークリッド幾何学やらアインシュタイン宇宙論やらと、伝説やら魔女が通底する話だから、実は「僧正殺人事件」とコンセプトが似ている。ラヴクラフトとヴァン・ダインって、生没年がほぼ同じで、並べてみると面白い) |
No.1 | 5点 | ムラ | |
(2013/01/09 20:31登録) 比較的、他の全集に比べて合う奴が多かった今回。 解説を見ると凡庸な作品との評価を受けた「死体蘇生者」はだからこそなのか、ラヴクラフト作品の中でもトップクラスに読者を想定した感じに書いてあってかなり楽しめた。研究に没頭する様とか疫病が流行った感じなんかがわかりやすくてよかった。 ただ、本作で一番楽しめたのは「魔女の家の夢」である。さほど横道にそれずに徐々に未知の恐怖が主人公を浸食していく様がありありと浮かんで楽しめた。それと同じタイプで「神殿」なんかも深海に潜む恐怖に包まれる船員たちの心情が面白かった。 「ダニッチの怪」の見えざる怪物にやられていく様はこれらとは逆に直接恐怖に貶める感じだったかな。この作品は魔女の家の夢の次に怖い作品だったかも。 「レッド・フックの怪」はラブクラフトにしては珍しく、ヘカテーとかヒュドラとかリリスとかセフィロトとかユダヤ教&ギリシア神話に関する事柄がド直球に出てきてた。それまでもダゴンとかいたけど、これはラヴクラフト風味にアレンジされていたのに対し、この作品はそのまんま持ってきたような感じだった。千なる貌をもてる月霊もナイアルラトホテップのことかと思ってたらどうも、ヒュドラのこと言ってるらしいし。 余談。 「死体蘇生者」にて、ある黒人の顔を『名状しがたいコンゴの秘密と不気味な月の下でひびくタムタムと言ったもの』と例えているが、タムタムのような顔ってどんなのだろう。 |