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ミステリの祭典

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ラヴクラフト全集 (6)
白い帆船 ウルタールの猫 蕃神 セレファイス ランドルフ・カーターの陳述 名状しがたいもの 銀の鍵 銀の鍵の門を越えて 未知なるカダスに夢を求めて

作家 H・P・ラヴクラフト
出版日1989年11月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2020/12/23 22:04登録)
この6巻でホラーになる作品は「ばかめ、ウォーランは死んだわ」で有名な「ランドルフ・カーターの陳述」とやはりカーターが登場する「名状しがたいもの」の2作だけで、残りの作品はすべてファンタジーになるものばかり。このラヴクラフト全集でも特殊巻になる。しかしね、

(怪異を)全然信じていないからこそ、怪奇なものに心惹かれ、精緻に描写できる

と言い放ったHPLだからこそ、そのホラーがあくまで知的な構築物なのに対して、この巻のファンタジーはよりHPLの個人性に密着してもいれば、作品的な「そつ」もあって、逆にHPLという「人物」が理解もできるし、親しみさえ持てるようになる。

だから、あくまでも「ホラーのクトゥルフ神話」に親しんだ後に「外伝」みたいに楽しむべき作品なんだと思っている。あれほど邪悪な外宇宙の邪神たちも、ファンタジーではヨグ=ソトースさえ「門の番人」ではあっても荘厳な神格として顕れる。だから正当な資格をもって門を通りたいカーターを助けてくれれば、ナイアルラトホテップもカーターが対等に騙し合いを演じるし、悍ましい食屍鬼の絵を描いたピックマンも晴れて食屍鬼の一員になり、食屍鬼の軍隊を率いてカーターに同行する...絶対性に翻弄されるホラーの「神格」ではなくて、あくまで対応可能な「性格」としてのキャラになって、まったく違うのがお楽しみ。
でしかも、HPL自身を投影したキャラ、夢見人ランドルフ・カーターのこの「夢」の世界が、

そなたはそなた自身の幼年期のささやかな空想を基に、かつて存在したいかなる幻よりも美しい都をつくりだしたのだ。

と評されるように、幼年期に夢みた空想の世界に基盤を持っていることを自覚的に示している。いや評者も齢をとったせいか、子供の頃のことなど、懐かしく回想することも増えてきたな...「前世の夢」とでも呼びたくなるような普遍的な「懐かしい」感覚が、本書のファンタジー作品だとビビッドに伝わってくる瞬間が、確かにある。
そんな特殊な6巻、HPL三大長編の一つ「未知なるカダスに夢を求めて」を収録。160ページほどの短い長編くらいのボリュームがあるに、一切章分けがないというのが、「夢っぽい」と思ったりする。脈絡がないようであるようで、そのまま繋がっているのが夢の世界なんだろう。

評者も懐かしい夢を見たい。

No.1 7点 ムラ
(2012/12/30 20:52登録)
怪奇小説なのでジャンルをホラーにしたけど、本当はSF・ファンタジーにしたいくらい本作はそっちの色が濃かった。特に未知なるカダスに夢を求めてはラヴクラフト作品の総結集という風に感じた。正直、他の作品はポウのようなホラーの枠を出ていなかったが、この作品集で一気に気色が変わった印象。
解説見てランドルフ・カーター連作は冒険小説の気色が強い感じなのでそっちに入れることにしました。
銀の鍵の門を越えてのカーターとヨグ=ソトースの関係をみると他の作品の主人公もカーターが夢見ていた登場人物ということになるのかな? 
ラヴクラフト作品をこれから見るって人がいるならこの作品集のランドルフー・カーター連作の中でも<銀の鍵の門を越えて>と<未知なるカダスに夢を求めて>を特にオススメしたいです。前者はラヴクラフトのSFホラーの総決算、後者はラヴクラフト世界の総決算というイメージを抱けたので。(まぁ、ホラーじゃなくて完全に冒険譚なんだけど)

余談
銀の鍵の門を越えてだけ外なる実体というかヨグが明らかに神聖な者として描かれてるのはホフマンのアイディアを取り入れたからなのか、単に元々そういうつもりなのだろうかどっちなのだろう。それくらい、五巻のダニッチの怪でのヨグの扱いと本作の扱いが違う気がする。というかこの話は他のホラーに描いてる話と違ってけっこう異質に思えた

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