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ミステリの祭典

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幻想文学入門
東雅夫編著

作家 アンソロジー(国内編集者)
出版日2012年11月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 おっさん
(2012/12/01 12:55登録)
『怪奇小説精華』『幻想小説神髄』と合わせて全3冊よりなる、ちくま文庫のアンソロジー<世界幻想文学大全>の、本書は解説/評論篇。
このテのジャンルの伝道師としてエネルギッシュに活躍している、東雅夫氏が、内外の――澁澤龍彦や中井英夫、小泉八雲やラヴクラフトなどの――評論やエッセイを選りすぐり、自身の読書遍歴と合わせてガイダンスしていく、濃いガイドブックです(後続の2冊と合わせる意味で、「アンソロジー」に登録しておきます)。

筆者も子供の頃から、お化けや幽霊はもとより、魔人・怪人、仮面・妖怪w のたぐいは好きなほうで、そっち系の本も読んできましたが、興味の中心がミステリに移行したこともあって、闇の輝きに取り込まれる前に、正気にかえってしまいましたw
以下は、そんな、彼岸に行きそこねたミステリ者の戯言です。

先日、本サイトのジャンル設定に関して、微力ながら協力させていただきましたが、内心、ミステリという枠のなかに、部分集合のように「ホラー」や「ファンタジー」があるという図式は、その筋の人には面白くないだろうな、という思いがありました。
なので、本書の編者のコメンタリーを読んでいて、

 「SF」や「本格ミステリ」「ライトノベル」などを広義の幻想文学と捉える見方もありますが、初心者が混乱をきたすといけないので本書では扱いません。

と言う文章に接し、ああ、あちらサイドでは「幻想文学」がいちばん大きいジャンルなのね、と苦笑しました。
ただ、東さんに喧嘩を売るわけではありませんが、「幻想文学」なる大仰なジャンル名、マイナーさから来る文学コンプレックスの裏返しのようで、筆者にはなじめないんだよなあ。
「ホラー(怪奇)とファンタジー(幻想)の両極を有する楕円構造を成している」(「編者敬白」)と言われても、じゃあ、「幻想文学」のなかに、別に「幻想小説」というサブジャンルがあるの? と突っ込みたくなってしまう。

本書に対するミステリ者としての一番の不満は、欧米怪談を原書で渉猟していた江戸川乱歩の、無類に面白い「怪談入門」が収録されていないこと。割愛した事情を編者は言いわけしていますが、このエッセイが創元推理文庫の『怪奇小説傑作集』(全5巻)につながっていく流れを考えても、これでは画竜点晴を欠くと言わざるをえません。
また『怪奇小説傑作集』以降のモダンな展開を補足する試みとしては、ハヤカワ文庫NVの『幻想と怪奇』(全3巻)が特筆されますが、その編者でもある仁賀克雄氏の、ホラー紹介者としての業績をまったく無視しているのはいかがなものか。仁賀氏の、翻訳者としての仕事ぶりに問題があるのであれば、それはそれできちんと指摘しておけばいい。「臭いものに蓋」あつかいには賛成できません。

とまあ、かなり否定的なことも書きましたが、収録作品自体は、さすがに勉強になるものが多かったです。
白眉は、H・P・ラヴクラフトの「文学と超自然的恐怖」。今回はじめて、この有名な怪奇小説通史の完訳に目を通し、その総花的ではない批判精神に、刺激されること大でした。欠点を指摘されている作品も含めて、自分の目で現物にあたり、論の是非を確かめてみたくなる、そんな文章です。これだけでも、定価分の価値は充分あります。

ところで。
本書は初動が好調で、早くも重版されたようですが(怪談専門誌『幽』のTwitter情報)・・・巻末の「世界幻想文学年表」で、ディクスン・カーの『火刑法廷』(1937)が1969年の作品扱いされているミスは、修正されているのかな?

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