生ける宝冠 レオ・カリング |
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作家 | S・A・ドゥーセ |
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出版日 | 不明 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | おっさん | |
(2012/11/22 15:48登録) 『スミルノ博士の日記』で、日本のクラシック・ミステリ・ファンに記憶される、スウェーデンのコナン・ドイルことS・A・ドゥーセが、1913年に発表したファースト長編です。 2年前、本サイトの書評を『スミルノ博士』でスタートさせた筆者としては、きりの良い書評の100冊目に、なんとかこれを取り上げたく・・・高い買い物をしてしまいましたw 原題は Stilettkaeppen(ウムラウト記号は代用表記。直訳すると「仕込杖」)。小酒井不木の(抄)訳で大正14年(1925)に『国民新聞』に連載され、翌年に博文館の<探偵傑作叢書>の一冊として刊行されましたが、今回、筆者が使用したテクストは、同じ博文館から昭和15年(1940)に出された<名作探偵>版です。 青年弁護士レオ・カリングの活躍を、「私」こと、友人の新聞記者トルネが記録する、ホームズ譚形式の物語。 「私」とカリングが招かれた、銀行家のホーム・パーティの席で話題にのぼったのは、やはり客人の一人である宝石商の店の、密室状況下のショーウインドウから、ダイヤの宝冠が消失した怪事件。 「是非この事件を僕の手で解決して見たいと思います」と探偵宣言して、帰路、現場検証にのぞんだカリングは、たちまち盗難のトリックを見破り容疑者の目星をつけたようだったが、カリングたちが訪れる直前に、くだんの容疑者は何者かに殺害される。 「私」を襲う怪漢、ストックホルムきっての名刑事の介入――しかしそれもまだ、目まぐるしい展開を見せる事件の、序の口にすぎなかった。 やがて、宝石商主催のパーティで、新たな惨劇が発生する。動機と機会をそなえた唯一の人物は、他ならぬレオ・カリングその人だった・・・ ホームズ譚と同等に、ルブランのルパンものの影響も強く、とにかく、あれもこれもと欲張り過ぎw 恋あり冒険あり、普通ならそうしたパートはワトスン役が一手に引き受けるのに、本作では、トルネとカリング双方が、担当してしまっています。良く言えばサービス満点ですが、悪く言えば散漫。 それでも、鮮明な輪郭をもたない、不定形な事件の連鎖が、まき散らされた伏線を回収しながら、本格ミステリとして収斂していく――あくまで、ゲームのルールが整備された“黄金時代”以前の水準とはいえ――後半の展開は悪くありません。 ああ、甲賀三郎のアレの元ネタは『生ける宝冠』であったかw プロット/トリックの創意工夫という点で、1917年の第四長編『スミルノ博士の日記』が印象深いのは確かですが、あれは必ずしもドゥーセの代表作とは言い難い面があり(たとえば『野獣死すべし』だけ読んでも、ニコラス・ブレイクという作家はわからないようなもの)、もしこれからドゥーセを読んでみようという奇特な向きがあれば、できれば本作か第二長編の『夜の冒険』に、先に目を通しておくのが吉ですね。 筆者は未見ですが、1992年に本の友社から出版された、<小酒井不木探偵小説全集>の『第6巻 翻訳集<1>』には『スミルノ博士の日記』と『夜の冒険』が、『第7巻 翻訳集<2>』には本作と第三長編の『スペードのキング』が収録されているようです。もしご利用の図書館で読めるようでしたら、是非どうぞ(大枚はたいて買う必要は、おそらく無いですw)。 |