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ミステリの祭典

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マンゴー・レイン

作家 馳星周
出版日2002年09月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2012/11/17 20:36登録)
女を陸路でバンコクからシンガポールへ連れて行く、この設定を読んだ時にこれは馳版『深夜プラスワン』かと思った。しかし物語はそんな風に簡単にはいかず、主人公の十河将人とメイはバンコク内を迷走する。
やがてメイの持つ仏像に隠された地図の正体を探るにあたって、本作のメイン・テーマは女をシンガポールに送ることではなく、実は仏像に隠された日本軍が遺した莫大なお宝を探し当てるというものであることが解る。
つまりこれは馳版『マルタの鷹』なのだ。歴史に残る冒険小説2作を相手にするあたり、馳氏のしたり顔が目に浮かぶようだ。

さて冒険小説の名作のモチーフを国産ノワールの雄が料理するとどうなるかというのが専ら私のこの作品を読む上での焦点であった。つまり舞台と登場人物を変えただけで、いつも物語は破滅に向かうという構成がこの味付けでどう変わるのかを注目していた。
しかしやはり馳氏は馳氏。変わらない。一度落ちぶれた人間がどうにか安楽の地を、生活を求めるために大金を手に入れようと足掻き、這いつくばる物語。人生の落伍者と貧困の犠牲者、2人の男女が日本軍の遺した宝を求める道行きに屍が転がっていく。こんな2人だから出てくる台詞は怨嗟の連続。セックス、金、暴力、そして時々ドラッグ。馳作品の諸要素が今回も織り込まれている。

今までの作品と違うのはこれまで馳作品ではろくでもない男どもに翻弄され、人生を狂わせていく存在にすぎなかった女性が、強くたくましく、最後まで生き残るところか。つまりこの作品はメイの物語だったのだ。

今回も次々と死人が生まれた。またもや遣り切れなさが残る作品であった。

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