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ミステリの祭典

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雪月夜

作家 馳星周
出版日2000年09月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2012/08/24 23:01登録)
都会を舞台にマフィアややくざの世界を描いてきた馳氏が選んだのはなんと北海道の根室。都会の喧騒もなく、ネオンもなく、はたまた民族が入り組んだ抗争もない。ただ北海道という地特有の事情、ロシア人を相手に利鞘を得る人々がいるという現実。一見大人しそうな街ながら裏ではお互いがお金を奪おうと虎視眈々と狙っている、陰湿な社会だ。

そんな町を舞台にした物語は至ってシンプル。東京のやくざの金を持ち逃げしたロシア女性のヒモをかつて根室で相当のワルと評されていた男が追ってくるという話。

読んでて思ったのはこれはいわゆる成長したジャイアンとスネ夫の物語ではないか!クライマックスの極限状態の中、幸司はある心理に辿り着く。忌み嫌う二人はこの上なく似ており、それ故忌み嫌う。裕司は幸司で、幸司は裕司だ。裕司の物は俺の物。俺の物は裕司の物。ここまで読むとまさにこの見方が正しかったことに気付く。

基本的な物語の構造は一緒だ。どんづまりの現状から逃げ出すために汚い大金を手に入れようともがく底辺の男たちの物語。『漂流街』のマーリオ然り、『夜光虫』の加倉然り。舞台が根室に、登場人物らが変わっただけで描く物語は同じ。この辺に馳氏の作家としての物語創造力に首を傾げてしまう。

馳氏の物語の熱といい、描く内容というのは買っているのだ。あとはあまりにステレオタイプすぎるプロットから脱却して唸らせるような新たな物語を見せてほしい。

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