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ミステリの祭典

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お菓子の髑髏:ブラッドベリ初期ミステリ短篇集
旧題『悪夢のカーニバル』

作家 レイ・ブラッドベリ
出版日1985年10月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 おっさん
(2013/01/28 10:40登録)
追悼読書というには、時期遅れもいいところですが・・・
「SFの巨匠レイ・ブラッドベリ氏が死去、91歳」、その訃報を目にした昨年の6月、たまたま直前に、ちくま文庫から出ていた本書を、何かに突き動かされるように買い求めた筆者でした。

ブラッドベリが「SFの巨匠」であることに、ことさら異議はありませんが――何より筆者にとってのブラッドベリは、子供の頃に『十月はたそがれの国』や『何かが道をやってくる』でみずみずしい文章の魔法を見せてくれた、とびきりの幻想(ファンタジー)作家です。
感受性豊かな時期に出逢い、その情感あふれる文体に惹かれたという点では、ジャンルこそ違え、コーネル・ウールリッチと好一対。じょじょに感傷と美文の過多に飽きがきて、離れていった(いまの筆者には、技巧を感じさせない平明な文章が一番)というところも、この二人は似ています。

さて。
そんなブラッドベリが作家修業中の1940年代後半、パルプ・マガジンなどに発表したミステリ系の作品をまとめたのが本書(かつて徳間文庫から『悪夢のカーニバル』として刊行されていたものの改題版)。
収録作は――①幼い刺客 ②用心深い男の死 ③わが怒りの炎 ④悪党の処理引き受けます ⑤悪党どもは地獄へ行け ⑥長い夜 ⑦屍体カーニバル ⑧地獄の三十分 ⑨はるかな家路 ⑩生ける葬儀 ⑪ぼくはそれほどばかじゃない! ⑫トランク・レディ ⑬銀幕の女王の死 ⑭死者は甦らず ⑮お菓子の髑髏

翻訳は仁賀克雄氏。誤訳・悪訳を叩かれまくった同氏ですが、本書の訳文はまあ、目くじらを立てるほど悪くないのではないか(アパートの火事で、炎が「長屋をめらめらと延びて行」ったりする、残念なところはありますけどねw)。
かつてのブラッドベリ・ファンからすれば、全体に、もう少し柔らかい表現を使って欲しいかな、とも思いますが、もとより仁賀氏に、伊藤典夫や小笠原豊樹を期待しているわけではありませんしw本書の場合、作者の習作時代の作品集ということで、若書き感を伝えている(怪我の功名?)と受けとれなくもない。

それより仁賀さんに言いたいのは、旧訳がある作品の題名を、無理に新しいものに変えないで欲しかった、ということ。
たとえば巻頭を飾る①「幼い刺客」、これはミステリ史上、最「低」齢の犯人が登場する一篇――と書いて、わかる人には即おわかりいただけるように、つまりは「小さな殺人者」(創元推理文庫『十月はたそがれの国』所収)です。原題“The Small Assassin”なので、別に間違った改題ではない。しかし、すでに多くの読者になじみのある名作(荒削りではあっても、そのコワさは、一度読んだら忘れられない)のタイトルを、なぜわざわざイジる? そんな自己主張はいりません。

さてさてw
「きみ」という二人称で語られる②「用心深い男の死」(ラストが東野圭吾『放課後』してるw)、死んだ「ぼく」の一人称を採用した③「わが怒りの炎」などを読むと、文体の工夫で新鮮味を出そうとする作者の意欲が、ビシビシ伝わってきます。
この作者のこととて、あまりストレートに“ミステリ”してないだろうと思いきや、殺人発生、犯人は誰? という謎→解明のプロセスをとったお話が、意外に多い。解明の論理を求めちゃいけませんけどねw
ブラッドベリが“あの”パターンに挑戦した⑪「ぼくはそれほどばかじゃない!」や、犯人はなぜ、盲人ひとり殺すのに三十分も要したのか? というホワイダニットの⑧「地獄の三十分」は、ミステリ・ファンなら目を通しておいて損はありません。

集中、筆者がもっとも気に入ったのは、サーカスを舞台にした⑦「屍体カーニバル」です(既読作の①「幼い刺客」は別格)。趣向としてはフーダニットで、個性的なレッドヘリング群が配されていますが、じつのところ真犯人は意外でもなんでもない。でもそこがいい。主人公にとって、まさに「結論はひとつ、それだけだ」なんです。ラスト・シーンの鮮やかさ、結びのセリフの哀しさが、胸に焼きつきます。

ブラッドベリは、この頃からやはり、ブラッドベリ以外の何者でもなかった、と実感できる一冊でした。

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