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ミステリの祭典

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虚の王

作家 馳星周
出版日2000年03月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2012/07/24 21:19登録)
一見普通の優男の高校生でありながら、周囲に恐れられている渡辺栄司と伝説のチーム金狼で火の玉小僧と恐れられていた暴力の権化新田隆弘。彼の肉体と激しいまでの暴力を以ても栄司の恐怖に縛られた彼の仲間を屈することはできない。隆弘は今まで自分が暴力を振るえば回りが屈していただけにいくら殴っても屈さずに笑顔を絶やさない栄司の存在に恐怖を感じる。はまさに精神が肉体を凌駕するとでも云おうか、異様な雰囲気を身に纏っている。

よくよく考えると馳作品の主人公は決して暴力が強い人間ではないことに気付かされる。不夜城シリーズの劉健一しかり『漂流街』のマーリオしかり『夜光虫』の加倉しかり。今回の渡辺栄司という高校生はその最たるもので、喧嘩が強いわけでもない、腕っぷしが強いわけでもない。ただただ非常に頭が良かった。そしてなによりも恐怖を感じない。人間として大事な愛とか情と云った感情を欠落した人物なのだ。自分の欲望のために人を利用し、人を傷つけることを厭わない空虚な心を持つ男。

しかしなんというか高校生で女子高生の売春を取り仕切る渡辺栄司というキャラクター造形がマンガの域を脱していないというか、むしろマンガの原作を読まされているような気がした。馳氏特有の路地の小便臭さまでが行間から匂い立つようなリアルさと熱が本書では感じられず、むしろ作り物めいた感じが拭えなかった。なんだか飲み屋で交わした会話のままに作ってしまったお話のような手触りがあった。

さてこの結末はこの作品がこれから始まる新たな物語の序章だということだろうか?
今まで馳氏が主役に選んだのは戸籍上日本人の外国人との混血児、もしくは中国系マフィアに翻弄される日本人だった。彼らへの強力な対抗馬として創造したのが渡辺栄司なのか?

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