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ミステリの祭典

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ホーンズ 角

作家 ジョー・ヒル
出版日2012年04月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 Tetchy
(2012/05/29 23:50登録)
いやあ、さすがはジョー・ヒル。どのジャンルにも属さない素晴らしくも奇妙な味わいの作品を読ませてくれる。
朝起きると角が生えていたというカフカの『変身』を思わせる発端から、角が生えたイグに逢う人物はことごとく腹に溜まっていた悪意の言葉を口にすることが解る。これがもうとても聞きたくない話ばかり。普通の隣人や知り合いが実は腹の中でどんな風に思っているのか。それが制限なく毒を垂れ流すが如く溢れ出る。なんというか、まともな人間はいないのかとまで思わされる。そして触れた者の密事が一瞬にして解る能力も授かる。この秘密事も知られたくはない性癖だったり悪事だったりする。しかしこんな能力は願い下げだ。

そして彼らよりも輪をかけて悪いのはイグの友人リー。とにかく今回はこの敵役のリー・トゥルノーの下衆野郎ぶりに尽きる。なんとも自分勝手な利己主義者であることか。他人の善意を利用し、全てを自分の都合のいいように解釈する。友人は全て利用する物、全ての女性は自分に抱かれたいと思っている、そんな傲慢な性格の持ち主だ。
日本の小説ならばここまで書くと…というブレーキがかかるところをジョー・ヒルはとことん描く。人間の嫌な部分をあからさまに謳う。この辺の筆致はクーンツに出てくる唾棄すべき悪役に似ている。

優しい者同士がお互いを強く愛するがゆえに起こった悲劇。そうこの物語は悲劇から始まる。そしてジョー・ヒルは悲劇から始まった彼らに対して安直な救いは用意しない。
物語の結末としては苦い物ばかりなのだが、なぜかその喪失感こそが爽やかだ。全てを燃やし切った彼らの心地よい徒労感が行間から漂う。そして題名『ホーンズ』のもう1つの意味が最後に解る、この演出もまた憎い。
もう少し削ればこの物語は傑作になりえただろう。ジョー・ヒルの長編を読んで残念に思うのは全てを語らんとする冗長さだ。この辺をもう少しそぎ落とし、行間で語れるようになればもっとすごい作家になるに違いない。
次作がもっと早く刊行されるよう、祈って待とう。

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