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ミステリの祭典

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アンティック・ドールは歌わない―カルメン登場

作家 栗本薫
出版日1988年06月
平均点4.00点
書評数1人

No.1 4点 おっさん
(2012/04/27 16:47登録)
読み残しの、栗本薫作品から。
スペイン帰りの、日本人フラメンコ・ダンサー(にして、ポルトガルの民族歌謡ファドの歌い手)、本名不詳、通称カルメンシータ・マリア・ロドリゲス――六本木の夜の世界の住人たる彼女を主人公にした、長めの短編4本、

1・お休み、アンジェリータ
2・『いとしのエリー』をもう一度
3・二時から五時までのブルース
4・アンティック・ドールは歌わない

を収録しています。昭和六十三年(1988)に新潮社から単行本が出た、作者の、これ一冊きりのシリーズ・キャラクターものです。

今回、筆者が読んだ新潮文庫版のカバー裏の、作品紹介文には「魅力的なキャラクターがやさしく謎を解いていく、栗本サスペンスの新境地」とありますが・・・なんか違うぞ、それw
犯罪に関与はするけど、このカルメン女史、べつに“探偵役”じゃないしね。
言ってみれば、役割としては――撒き餌(まきえ)かな?
その強く激しい気性が、磁石のように、ある種の人々を引きつける。あるときはあこがれの対象として、あるときは憎しみの対象として。そして引きつけられる病んだ心が“事件”を起こし、その帰結にカルメンが立ち会うことになる。

一番最初に書かれた(のに巻末に置かれている)表題作4では、まだその特色が発揮されておらず、レズのカルメン、美少女アイドルを拾うの巻、といった軽いノリですが(それでも、ラストシーンのうまさはダントツ)、2や3になると、作者は“平凡なOL”や“平凡な主婦”をカルメンと対置させ、そんな平凡人が一線を超える瞬間、その異常な心理を描き出そうとします。
腰砕け気味なのが残念で、2は、相棒の刑事が発砲してジ・エンド(刑事が日常、拳銃を携帯してたら大問題ですよ、栗本センセ)、3は・・・う~ん、このエンディングは筆者にはよくわかりません。投げっぱなしなのか、余韻を残しているのか?
それでも、そこにいたるまでの、カタギの暮らしの象徴のような“平和な平凡な分譲住宅地”(カルメンにとっては、逆に異界)に亀裂が入って、日常の地獄を覗かせる展開と、カルメンと五歳の少年の交流のエピソードの良さで、本書から一篇となれば、この「二時から五時までのブルース」を採ります。

巻頭の1(じつは一番最後に書かれたお話)では、ヒロインがスペインから日本に帰って来た理由が描かれています。枚数的に最長(400字詰原稿用紙にして、約140枚)で、ストーリーも起伏に富みますが、お約束のようなヤクザの抗争があったり、“栗本流ハードボイルド”のマナリズムが感じられ、2や3の“心理ミステリ”的アプローチにくらべると、物足りません。
そして何より、結果として巻頭作としては、中途半端。行方をくらました、カルメンの恋人アンジェリータ(彼女もまた日本人)の存在が、宙に浮いたままです。
作者が飽きたのか、親本が売れず続きを書きにくくなってしまったのかわかりませんが、シリーズを投げるのであれば、せめて文庫化のさいに、アンジェリータとの決着篇を書き下ろして、ラストに配すべきでした。

<お役者捕物帖>といい(あれも版元は新潮社でしたねw)勝手にシリーズ終了は、栗本薫の悪い癖です。

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