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ミステリの祭典

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姿なき怪盗
獅子内俊次

作家 甲賀三郎
出版日1949年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 おっさん
(2012/04/21 16:08登録)
昭和日報のエース記者・獅子内俊次は、保養のため伊豆の海岸にある旅館に逗留するが、たまたま目にした美女の行動に関心を持ったばかりに、近くの洞窟で、頭部に銃弾を撃ち込まれた白骨死体を発見する羽目に。
調査に乗り出そうとする獅子内だったが、昭和日報の社長が殺害され、大恩ある社長夫人に殺害の嫌疑がかかるという非常事態が発生し、急遽、東京に舞い戻る。
やがて。
無関係に見えた二つの事件が結び付き、浮かび上がって来たのは、和製ルパンの異名を持つ怪盗、三橋龍三の存在だった・・・

日本図書センターの<甲賀三郎全集>第4巻は、この長編『姿なき怪盗』一本ぽっきりw
なにせ昭和七年(1932)に、新潮社の<新作探偵小説全集>に書き下ろされた、400字詰原稿用紙にして600枚におよぶ雄編ですからね。

筆者は、甲賀三郎は、資質的に短編型の作家だと思っています。
全体を律する謎をデンと構築できないため、“長さ”を維持するためには、クライマックスへむけて、小さな事件を次々に発生させるという小説作法になりがち。
そうなると、明確な全体像を必須とする本格探偵小説が、限りなく不定型なスリラーに近づきます。
そして探偵小説的な趣向をちりばめたスリラーとしては、健全な娯楽小説を志向したぶん、敵役(じつは主役)の悪のスリルと言う点で、ライヴァル乱歩のそのテの長編にくらべて印象が薄い(余談ですが、甲賀の作風からいって、およそ代表作とは見なしがたい『支倉事件』が、結果として頭ひとつ抜きんでているのは、“犯人”の肖像の特異さゆえですね)。

そんななか。
○人○役というアイデアを核にした本作は、ジェットコースター的展開と、事件の全貌が明らかになったときの探偵小説的驚きの両立に関して、かなり健闘しています。
筆者は、少年時代、春陽文庫版で読んでいましたが(それゆえ湊書房版の<甲賀三郎全集>通読時には、スルーしていました)、盛り込まれた小ネタ――獅子内のアパートで起きる、密室殺人のトリックとかね――も結構、覚えていましたよ。
怪人(怪盗三橋というネーミング・センスはトホホですし、およそ人を殺しまくる三橋に“怪盗”のイメージはありませんがw)対名探偵(作者の意図とは裏腹に、熱血バカなメイ探偵として、獅子内のキャラが立っていますw)の変奏曲として、甲賀長編のなかでは、まぎれもないAランク。

なんですが。
ただねえ、基本的に、従来の連載長編の延長なんですよね。
これって、さきにも述べたように、戦前には珍しい書き下ろしでしょ?
甲賀には、この機会に、自身の考える“本格探偵小説(長編もの)”をキッチリ具現化して欲しかったんだよなあ。
枠組みは、別に、このままの怪人対名探偵でかまいません。「江戸川君の畑で、江戸川君に書けない合理的な本格を書いてやろう」という、一歩進んだ意識があれば・・・
薬理トリックを盛り込むにしても、都合のいい薬をでっちあげるのではなく(このへんは、全集第3巻収録の『公園の殺人』の、安易な×××使用にも見られた、作者の悪い癖)、きちんと調べて使える薬を採用し、変装でオドロキを演出するにしても、その具体的なプロセスを記すことで説得力をもたせる――波乱万丈の面白さを、そうした細心なフェアプレイが裏打ちしていれば、これは現代にも通用するエンタテインメントになったでしょうに。
作者のためにも、それを惜しみます。

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