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ミステリの祭典

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浮世絵師 人形佐七捕物帳

作家 横溝正史
出版日1984年11月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 おっさん
(2012/04/14 10:53登録)
春陽文庫の<人形佐七捕物帳全集>、その第13巻です。
収録作は――

1.美男虚無僧 2.いなり娘 3.巡礼塚由来 4.日本左衛門 5.二枚短冊 6.怪談五色猫 7.蛇を使う女 8.かんざし籤 9.狼侍 10.浮世絵師

玉石混交です。
まさに狐につままれたような、2のエンディングの投げっぱなし感(悪人が謎の男たちに拉致されてオシマイ)、5の、女の生腕(!)をオモチャにした導入部と結びの文章の非常識さ(「こうなると、腕の一本ぐらい切り落とされても、むしろ幸福だったといわなければなるまい」)、8のもってまわったプロット(異常者による異常犯罪)と陰惨な読後感――このへんは、シリーズのファンにとっても、ちょっと挨拶に困ります。

そんななかにあって。
名代の大泥棒・日本左衛門が刑死してから二十余年、またもや江戸に現われた、いわば日本左衛門二世が佐七に挑戦状をたたきつける4は、幾分、説明不足の気味はあっても、事件の連続性(将軍の寵妾が寺に寄進する御進物が、吉原の太夫の身請けの金が、相次いで奪われる)に探偵小説らしい工夫の凝らされた、隠れた逸品。
人情噺的な決着も良く、これはシリーズのベストテンに入ります。

人情噺といえば。
旗本屋敷の若殿と、見世物小屋の女芸人が、同じ日に蝮にかまれるという二つの出来事が、意外な結びつきを見せる7も、謎の解明と人情味のバランスがよくとれ、笑い(お色気のサービスのおおらかさ)が悲哀を中和して、読後感を好ましいものにしています。

表題作の10は、昭和三十年代なかばの<お役者文七捕物暦>第五話「江戸の陰獣」の改稿版。
猫々亭(びょうびょうてい)独眼斎と名乗る隻眼の浮世絵師(怪人)が女の乳房をかみ裂いて殺していくのを、若い御用聞きを助けて我らが佐七(名探偵)が迎え撃つ――なんだかとても懐かしいw テイストの力作です。
ありていに言ってしまえば、昭和三十年代の、都会を舞台にした金田一もの(幽霊男、狼男、雨男に青蜥蜴といったライヴァルたちを想起せられよ)の“あの”パターンを流用しただけなのですが、時代物に落とし込むことで、通俗がかった金田一ものの違和感は減じています。
エログロシーンは好悪の分かれるところでしょうし、佐七でこれをやらなくても、と言う声は当然あると思いますが、複雑な真相をうまくさばいて、それぞれのキャラクターを印象づけているのはポイントが高く、ラストで佐七の初手柄「羽子板娘」が回想されるのも、いい味を出しています。

春陽文庫の全集版は、昭和四十八年から四十九年にかけて、いったんこの第13巻で完結しました。
ここでそのまま終わっていれば、シリーズ全体の締めが美しかったのですが・・・
しかし、あいにく翌年、好評に応えて一冊、追加されてしまいましたw

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