home

ミステリの祭典

login
漂流街

作家 馳星周
出版日1998年09月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2012/02/27 22:45登録)
鬱屈した日常に嫌気が差した日系ブラジル人の主人公マーリオがひょんなことから漏れ聞いた関西のやくざと中国マフィアとのデカい取引の金を強奪し、あらゆる追手から逃げるという話なのだが、この強奪に至るまでが非常に長い。取引の情報を手に入れるのが49ページとストーリーの中でも非常に早い段階なのにもかかわらず、実際に実行に至るのは470ページあたりなのだ。

しかしそれが退屈かと云われれば、そうではないと認めざるを得ない。文庫本にして770ページ弱の厚みを一気に読ませる求心力を持っている。とにかく全編に亘って語られる内容は金とドラッグ、セックスと暴力の連続。憎悪と怒りの応酬だ。誰もがギラギラしており、誰かを利用しようと手ぐすね引いて待っている。

この暗黒の群像劇を描く馳氏の筆致はものすごい熱量で読者の眼前に言葉を畳み掛け、叩き付ける。いつの間にか時間を忘れ、ふと顔を挙げると大きく息を吐く自分に気付く。掌は汗をかいているのに指先は冷たくなっている。そんな魔力を秘めている。
だからこそ最後の物語の収束の仕方に不満が残る。小賢しい知恵で世間を亘り、やくざ、中国人マフィア、ブラジル移民たちを騙し利用してきたマーリオが極限の中で見せたのが単なる殺戮の連続だったのは正直失望した。
これほど複雑な絵を描きながら最後で物語を破綻させてしまった、そんな風に思わざるを得ない。

1レコード表示中です 書評