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ミステリの祭典

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梅若水揚帳 人形佐七捕物帳

作家 横溝正史
出版日1984年10月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 おっさん
(2012/02/08 15:59登録)
春陽文庫<人形佐七捕物帳全集>全14巻のうち、第12巻となります。
収録作は――

1.梅若水揚帳 2.謎坊主 3.お時計献上 4.当たり矢 5.妖犬伝 6.百物語の夜 7.二人亀之助 8.きつねの宗丹 9.くらげ大尽 10.座頭の鈴

以前に読んだときも感じたのですが、どうもこの巻は好きくないw
前巻(『鼓狂言』)に比べれば、作品の水準はまあ持ち直していますし、ミステリ的趣向を凝らしたトリッキーな作も散見する(たとえば4などは、お色直しのうえ、金田一ものの「毒の矢」にヘンシンする)のですが・・・

巻頭の表題作1が、なんか全体のトーンを象徴しているんですよね。非情な犯行にエログロ志向。金田一もので言うなら、『悪魔の百唇譜』、あのセンです。
この1は、昭和三十年代なかばに書かれた<お役者文七捕物暦>からの改作(原型は「恐怖の雪だるま」)ですが、戦中の<朝顔金太捕物帳>からのリライトが、密室殺人テーマの3。面白くなる要素は充分ながら、余計な殺人と、これまた無意味な愛欲シーンが追加されて、いちじるしく読後感を損ねる結果になっています。
原型となった金太版「お時計献上」(昭和19年発表。基本は人情噺ながら、ミステリ面で、はじめてディクスン・カーの影響がストレートに現れた、注目作)は、出版芸術社の<横溝正史時代小説コレクション>捕物篇③『奇傑左一平』に収録されているので、正史の“改稿”に興味をお持ちの向きは、読み比べてみてください。

アンソロジーに採られたりもして、比較的、ミステリ・ファンに知られているのは、6でしょうか。海外ミステリの有名どころを換骨奪胎した一篇ですが、「羽子板娘」や「ほおずき大尽」(ともに第1巻収録)あたりと比べてもアレンジの面白さに乏しく、ストーリーも幾分はしょり気味で、出来はもうひとつ。こういうお話こそ、加筆してブラッシュ・アップすべきなのになあ。

しいてベスト作を選出するとすれば――
異様な設定(いちどに二人の妻を娶っては、その二人を同時に離縁することを繰り返す、お大尽)と二転三転するストーリー展開(お大尽は・・・不死なのか?)のかげに探偵小説ならではの仕掛けを忍ばせた、9になります。
なりますが、前提となる“障害者”の描き方には、かなりの問題があり、広く一般に推薦するのは、ためらわれます。
あくまで“時代性”をかんがみ、隠れてこっそり読みましょう。

ああ、やっぱりこの巻も微妙だw

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