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ミステリの祭典

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鼓狂言 人形佐七捕物帳

作家 横溝正史
出版日1984年09月
平均点4.00点
書評数1人

No.1 4点 おっさん
(2011/12/06 11:53登録)
師走に読む捕物帳には、格別な風情があるような。
たとえそれが、『鼓狂言』であってもw

春陽文庫の<人形佐七捕物帳全集>中、ある意味、もっとも記憶鮮明な11巻の再読です。収録作は――

1.初春笑い薬 2.孟宗竹 3.鼓狂言 4.人面瘡若衆 5.非人の仇討ち 6.半分鶴之助 7.嵐の修験者 8.唐草権太 9.夜歩き娘 10.出世競べ三人旅

ぶっちゃけ、出来の悪い作が多いです。謎解きが消化不良だったり、ドラマに救いが無かったり・・・収録作のレヴェルは、ここまでで最低でしょう。
ただ。
可もなし不可もなし、といった水準作が多い巻にくらべると、逆になんじゃこりゃあ、という印象の強さはあるんですよ。

たとえば4。「世にも因果なかたわ者を一堂にあつめて、そのなかから、もっとも奇妙きてれつな因果者に、一等賞として金十両進呈しよう」という催しが事件の契機となり、人面瘡をもつ美少年やら、手足の無い、首と胴だけの女(彼女が殺人の被害者になる)やらがゾロゾロ登場します((-_-;)。
読者サービス用(?)の“お色気”も、完全に18禁というか、目も当てられないエログロが展開して・・・これは佐七全話をとおしてのワースト候補。忘れ難いw

以前、佐七が将軍・徳川家斉と共演する「日食御殿」(第4巻『好色いもり酒』所収)を紹介しましたが、その続編的性格をもつ、表題作の3も、「人面瘡若衆」とは別な意味でとんでもない。
将軍じきじきの依頼で、男子禁制の江戸城大奥へ出頭した佐七は、幽霊騒ぎと毒殺魔の跳梁(この両者の関連は?)を探索するため、なんと前代未聞、大奥での泊りこみを開始します! 将軍と取り決めたタイムリミットは48時間。女の争いの渦中に分け入る佐七にも、やがて犯人の凶手は伸びて・・・
いや~、佐七ひとりならともかく、辰や豆六を連れて乗り込むのは無茶でしょ(もしリライトするなら、お目付け役のお年寄――老婆の意に非ず。奥向きの家政をつかさどる大奥の権威――を登場させて、佐七とのバディものにしたら、面白からん。ツンデレ希望)。事件の背景にある、一年前の部屋子の自害の真相も、ちょっと理解に苦しむシロモノ。設定だけは、抜群に興味深いんだけど・・・この臆面の無いストーリーは、まるでインチキなTV時代劇の特番だよぉ。あ、でも、ドラマ化されたら是非観てみたいw

まあ、比較的スンナリ読めて、この巻でオススメと言えるのは、シリーズ恒例の、本物はどっちだヴァリエーション(今回は、美少年をめぐる二人の母親)の6と、女の髪飾りを狙う、奇妙な通り魔騒動が殺人に発展する8――ミステリ的趣向はさておき、人情噺としての決着が美しい、この2篇でしょうか。
しかし、くどいようですが、ダメダメな作品のほうが、はるかにインパクトがあるという、じつになんとも、微妙な巻ではあります。

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