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ミステリの祭典

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小倉百人一首 人形佐七捕物帳

作家 横溝正史
出版日1984年08月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 おっさん
(2011/10/08 10:41登録)
春陽文庫の<人形佐七捕物帳全集>も、いよいよ二桁に突入の第10巻です。収録作は――

1.小倉百人一首 2.紅梅屋敷 3.彫物師の娘 4.括り猿の秘密 5.睡り鈴之助 6.ふたり後家 7.三日月おせん 8.狸ばやし 9.お玉が池 10.若衆かつら

以前、このシリーズをアトランダムに読んだときは、きわだった印象の無い巻と思ったのですが、読み返してみると、たしかに傑出した作は無いものの、意外に読み物として楽しめる作が目につき、前巻(『女刺青師』)や前々巻(『三人色若衆』)にくらべると持ち直しています。
集中のベストは、二人のうち本物はどっち? という佐七でおなじみのパターンに、ひねりを利かせた3でしょう。人情噺としても、よくまとまっています。余談ですが、近年の本格ミステリの収穫、三津田信三の『○○の如き○○もの』(さて、何作目でしょう?)、あの発想源はコレではないかしらん。
佐七ファミリーが俳句に凝りだす9(変形のダイイング・メッセージもの・・・かなw)、嫉妬に駆られたお粂の活躍がユニークな2(シリーズ中、屈指のケッサク「離魂病」――第6巻『坊主斬り貞宗』所収――を引き合いに出して、すべて丸く収めてしまうエンディングがグッド)あたりも良いのですが、個人的にピック・アップしておきたいのは5ですね。

 「これはいったいどうしたことじゃ。拙者はどうしてこんなところに寝ているのだ」
 喧嘩で頭を打たれ意識を失った、非人(士農工商の下の位置づけの、最下層)の鈴之助。
 目を覚ますと、急に侍言葉で暴れだした。
 それを見ていた女房のお小夜は、涙ながらに言う。
 「あなたさまは眠っていられたのでございます。三年のあいだ――」
 鈴之助とお小夜が非人の境涯に落ちる原因となった、三年前の仕組まれた心中未遂事件の謎を、佐七が暴く。

別々に男と女を殺して(この場合、被害者はまだ死にきっていなかったんですけど)、その二人を一緒にしておいて心中に見せかける、という着想が光ります。そう、じつはこれ、松本清張の、あの『点と線』(昭和32~33年)の先取りなんですよ(「睡り鈴之助」は昭和17年の作)。
また、横溝正史の投稿作家時代の、幻の時代小説「三年睡った鈴之助」の改作らしいという点でも、正史ファンなら要チェックです。
設定の問題もあって、なかなか再録は難しいでしょうから、興味をお持ちの向きは、古本をお探しください。

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