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ミステリの祭典

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女刺青師 人形佐七捕物帳

作家 横溝正史
出版日1984年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 おっさん
(2011/08/01 17:08登録)
春陽文庫の<人形佐七捕物帳全集>第9巻です。

1.女刺青師 2.からかさ榎 3.色八卦 4.まぼろし役者
5.蝙蝠屋敷 6.舟幽霊 7.捕物三つ巴 8.丑の時参り 9.仮面の若殿 10.白痴娘

全体に、ルーティン・ワークっぽい印象を受けます。あまり出来は良くないけど、それなりにサービスしてくれてるし、まあこの水準ならよしとするか・・・的な読後感。
そんななかにあって、プロットが頭ひとつ抜きんでているのは6ですね。じつは以前に読んだときは、ああ、例のパターンのトリック、ヨコセイ好きだからな・・・くらいに思ってたんですが、真相を承知して読み返すと、これ、ビンビン来ます。
「舟幽霊」というタイトルがほのめかす、怪談めいた“つかみ”から読者を導く先は、たとえばカーの名作「妖魔の森の家」がそうであるように、スーパーナチュラルな怪談とは別種のコワさの領域。
手掛りにもとづく事件の絵解きが、いきあたりばったりで大胆、非情にして狡猾――そんな犯人像を鮮やかに浮かび上がらせます。

あとのお話は、(それなりに凝らされてはいる)ミステリ的趣向より、レギュラー・キャラクターの掛け合いをおおらかに楽しむのが吉、といったところでしょうか。
表題作の1は、同じ彫師の刺青をもつ女たちが次々に変死していく、という「羽子板娘」的連続殺人パターンを長尺でみっちり描きますが、ストーリーを複雑化したぶん、逆に印象が散漫になってしまい、記憶にとどまるのは、佐七の敵役である御用聞き・海坊主の茂平次のサイド・ストーリーだったりします。
捕物くらべという魅力的な設定をいかしきれず失速する(駆け足で予定調和のエンディングを迎える)7なども、本筋より、佐七のほうが嫉妬に燃えてお粂にエキサイトする、夫婦喧嘩もののヴァリエーションの新機軸w で読ませます。

なお、前巻のレヴューでは、「性対象」の描き方を問題点として指摘しましたが、本書でいえば、オシマイのほうの話の「難病」や「知的障害者」のあつかいは、この場合、後味が悪くなるような処理ではないものの、「作品発表当時の時代的背景」を充分に考慮する必要があります。

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