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ミステリの祭典

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野の墓標

作家 水上勉
出版日1961年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2011/06/28 21:30登録)
昭和30年台の繊維業界を舞台にした連続殺人を扱った、いかにも社会派らしい作品です。ただし、殺人動機は社会的背景を持ってはいるものの、企業犯罪と言うには個人的すぎるようです。そのあたり、『海の牙』とも共通するように思いますが、この作者の個人と社会との捉え方なのかもしれません。
事件自体については、冒頭で墜落死する男をやとって看板を描かせた意味がないというところが不満です。そのようなことをしたために、被害者の弟である雑誌記者や警察が疑念を抱くことになるわけですから、ストーリーを成立させるためのご都合主義と言われてもしかたがないでしょう。雑誌記者と刑事との視点を交互に使っていく手法も、それほど効果的とは思えません。
とはいえ、殺人現場の一つである京都嵐山の奥から、綾部の方の情景描写はさすがですし、上述の点を除くと犯罪計画も無理なくできています。いい意味で時代性を感じさせる作品と言えると思います。

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