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ミステリの祭典

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吸血鬼
お役者捕物帖

作家 栗本薫
出版日1984年09月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 おっさん
(2011/05/25 00:15登録)
最近になって、朝日文庫で復刊されているのに気づき、びっくりしました。いま、これが読めるのか・・・。妙な感慨があり、つい手元の新潮文庫版を読み返す羽目に。

本書には、昭和58年から翌59年にかけて「小説新潮」に読み切り連載された、美貌の若女形・嵐夢之丞を主人公とする、以下の八篇が収められています。
1.瀧夜叉ごろし 2.出逢茶屋の女 3.お小夜しぐれ
4.鬼の栖 5.船幽霊 6.死神小町 7.吸血鬼 8.消えた幽霊

捕物帳の主役に、岡っ引きや同心ではなく、歌舞伎役者を起用したのが特徴のこのシリーズ(事件ごとに、関わりかたに変化をつけていく作者の苦心も読みどころ)、本来の初披露は、昭和57年に、栗本薫が「小説新潮」誌上で、毎月ジャンルの異なる短編を発表する企画の一環として書かれた「離魂病の女」です。
そのパイロット版の好評を受けて(また作者が新キャラに入れ込んで)、本書収録の連作がスタートした次第(振り返るとシリーズの整合性に欠け、浮いてしまったw「離魂病の女」は、短編集『十二ヶ月 栗本薫バラエティ劇場』でしか読むことができません)

さて本題。
舞台上での謎の転落死を扱った1は、シリーズの開幕として、見事な滑り出しをみせます。その見事さは、話術の鮮やかさで、トリックや謎解きに関しては大味なんですがね。
夢之丞を思わせる男が犯行現場から消え失せる2になると、より手の込んだ犯行のぶん、無理もきわだちます。
むしろ、夢之丞びいきの娘の連続殺人に、ミステリとしての工夫は何もないが、ドラマチックな幕切れの演出にすべてを賭けた3のほうに、栗本薫の良さが出ているのは皮肉。
4は、残念ですね。エラリー・クイーンふうの二重構造のプロットで、事件の構図を逆転させる狙いは良いのですが、ダミーの“真相”に説得力が無さ過ぎるのが難。
怪談ばなしを絡めた5は、達者なドラマづくりと雑な謎解きという、まあシリーズのアベレージ。
私がベストと考えるのは6で、彼女を女房にと望んだ男が次々に変死していく、美人小町の話です。細部の小細工(栗本ミステリの弱点)をぼかし、裏設定のインパクトで押し切ることに成功しました。4がクイーンなら、こちらはロス・マクドナルドか。

問題は、このあと。
7と8で、役者になる前の夢之丞の、プライベートの謎に焦点があてられ、シリーズの性格が一変してしまうのです。捕物から伝奇へ。この変化はイケナイ。というか、いくらなんでも展開が早すぎる。
<主人公の過去>という謎を孕んだまま、じっくり何巻かかけて物語を進行させ、大河ドラマ的に構成すべきところ、なぜ最初の作品集でそれをやるか。しかも8は、夢さんが謎の消え方をして、中途半端に終了。続きは長編『地獄島』で――ということになるわけですが、これでは短編集としての評価はキビシイよお。
あとさき考えない栗本センセの判断ミスが、せっかくの魅力的なシリーズ(たりえたもの)を先細りにしてしまった、悲しい例のひとつ、であります。

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