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ミステリの祭典

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偽装
詩人探偵・楼取亜門

作家 相村英輔
出版日2000年07月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2018/06/22 10:51登録)
(ネタバレなし)
 都内在住の実業家・浦崎長恭の妻・和子が自宅で変死体で見つかる。現場や死体の状況から被害者は強盗殺人の犠牲になったのかと推されるが、やがて検死の結果、彼女は自殺とわかる。誰かが自殺を他殺に偽装した? として捜査陣の嫌疑が浦崎に向かい、さらに過去に浦崎の会社の3人の従業員が、彼に莫大な保険金を遺して死んでいる事実が判明した。そんななか、浦崎の友人で事件に関わった電器店の主人・小谷修が殺害される。これも浦崎の犯行かと思われるが、彼には検死官の死亡推定時刻に大阪にいたという絶対のアリバイがあった。

 詩人探偵・楼取亜門シリーズの第二作で、現在までの最終作。
 例によって? Twitterで悪評を呼んでるから読んでみたが、個人的には、前作同様、ウワサほどひどいものではなかった。
 まあたしかに中盤、アリバイ捜査の道筋のうち、結局は警察側から見て徒労に終る部分をここまで徹底的に細かく書かんでもいいんでないのとか、メインの殺人事件となる小谷殺しに先立つ4つの死亡事件の精査がおざなりだとか、その手の不満は感じた。特に前者についてはくだんのTwitterなんかでも「駄目な時刻表ミステリ」の代表作であるかのようにも揶揄され、そういう文句が出るのもわからなくない。
 ただまあ、長々と綴られたそっち方向の叙述も、実は終盤の逆転推理のためのミスディレクションを力押しにしているのだと見るならば、その狙いは理解できる。少なくともこの迂路に見える部分には、一応の意味があるように思える。最後に「実はそっちじゃないんだよね~」と言わんばかりに明かされる事件の真実とそれを支えるメイントリックも、なんか昭和のB級パズラー風で微笑ましい。
 前作は都筑道夫の推挙を受けて刊行されたそうだが、どっちかというと今回の方が都筑ティストとの接点を見出しうるような。
 この作者独自のミステリ愛があり、探偵キャラクターや世界観を築くことに当人なりに傾注していることもあとがきに感じられる(前作と本作の時代設定の間に20年以上あるのに、劇中人物がまったく加齢していないことへの、いわゆる「言わんでもいいがな」的なイクスキューズとか)。

 作者はこの2冊を書いたあと時代小説の方に行っちゃったみたいだけど、もうちょっと亜門シリーズを読みたかったな。まああんまり書き慣れてくると、このヘタウマっぽい味は薄れるかもしれないんだけど。

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