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ミステリの祭典

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殉霊

作家 谺健二
出版日2000年04月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2019/07/15 22:27登録)
(ネタバレなし)
 1994年11月20日の夜。デビューしてまだ1年ちょっとだが、独特の個性で若者たちからカリスマ的な支持を集めつつある20歳の歌手・矢貫馬遥(やぬまはるか)は、所属する都内の芸能プロの建物の屋上から身を投げた!? だが地上に墜落死体はなく、それどころか遙の体は少し時間が経ったのち、首のない無惨なバラバラ死体となって離れた場所で巨大なクリスマスツリーを飾るかのような状態で見つかった。だがさしたる手がかりは得られず、捜査は暗礁に乗り上げる。そんな頃、関西の民間調査機関「中山リサーチセンター」のスタッフである20代半ばの娘・緋色翔子は、自殺しかけた冬木絵梨と名のる十代末の少女に遭遇。かつて姉の亜樹を、歌手・岡田有希子の自死の後追い自殺で失っている翔子は絵梨を放っておけず、親身に面倒を見るが……。

 小さめの級数の活字で二段組み、500頁以上の大作。
 評者はこの作者の作品はこれまで処女作と現状の最新作『ケムール・ミステリー』しか読んでなかったが、先日届いたミステリファンサークル<SRの会>の正会誌「SRマンスリー」の最新号が平成作品の総括みたいな特集内容で、そこでは結構この人の作品の評価が高い(その年の国産ベストワンになってる長編もある)。それで気になって、どうせならまだ本サイトでレビューのないこの作品を……と思って取り寄せてみたが、思わぬぶ厚さに驚いた。
 しかし読み出すと存外にリーダビリティは高く、ほとんど二日くらいで読み終えた。文章はけっこうくどい感じで、作中のリアルの事項を拾う筆致も細かいんだけれど、なぜかあまりストレスがない。文章のテンポが良いのであろう。
 物語の主題は「生と死」「自殺」「後追い自殺の連鎖」などに始まる陰鬱で重いものがメインだが、主人公の翔子は凄惨な過去と辛い現実を抱えながら、それでもくじけない一貫した精神的なタフネスさがあり、大部の物語を牽引するに相応しい。そんな彼女の行く道は当然ながら必ずしもなだらかではないが、その辺はネタバレになるのでここでは言えない。
 ミステリとしては最初の大きな仕掛けはまあ予想がつくのだが、大小の手数の多いテクニックが駆使されて長丁場を支える。終盤に明らかになる事件の真相というか実態はある意味でミステリの通常のコードを踏み外したものだが、それだけにインパクトは大きい、とは思う。ただし読者が3~4人いたらそのうちの一人はけっこう早く見抜いてしまうかもしれない危うさもあり、現状のAmazonの唯一のレビューで酷評しているヒトは、それに該当したのかもしれない。
(ちなみに参考までに、本作はTwitterの場などでは、好評な反応がいくつか確認されている。その辺の温度差の観測をまとめるなら、主題もミステリの作りも、どうにも人を選ぶ作品、ということか。)
 
 評者なんかも長く生きている以上、辛いこと、慟哭することは何度もあったが、それでも幸か不幸かあまり自死や自傷などは考えないタイプの人間として齢を重ねてきた。その意味では本書の主題を介して、あまり考えの及ぶ機会のなかったテーマを覗かせてもらった感慨もある。まあ本書を読む以前から、愚直に棒読みで生きてさえいればいいことがあるよ、と無責任なことをホイホイ言えない程度の節度はあるつもりだが、それでも改めてぐるりと回って、それ(自殺するくらいなら生きていた方がいい)は<おおむねは>事実だな、とは思うのだ。
 ラストはドラマとしてキレイにまとめすぎた感じもないではないが、かといって作者が作劇的に逆張りをしていたら、それは絶対に間違っていたと思う。だからこれでいいんでないの。

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