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ミステリの祭典

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行き止まりの挽歌

作家 栗本薫
出版日1981年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 おっさん
(2011/02/06 17:35登録)
新宿西署のはみだし刑事・梶竜介は、バンドマン殺しの容疑者として、被害者が想いを寄せていた暴走族の少女にアタリをつけ、執拗に自白を迫るが、暴走して捜査班をはずされる。一見、単純に見えた事件の裏には、暴力団と政治家の癒着があり・・・

昭和56年(1981)のノン・シリーズ長篇です。このところ栗本薫を読み返していたら、つい未読分が気になりだして、え~いこの機会にと手に取りましたの一冊。
物語は、捜査のパート(全体の2/3ほど)から、あるプロット・ポイントをへて、逃亡のパートに切り替わるのですが、悪徳刑事の捜査行を描く前段は、ダメダメ。
なんらの物証もなく少女を犯人と決め付け、いたぶり、あげくレイプするにいたっては、本を投げ出そうかと思いましたね。
まったく共感できないキャラクターに輪をかけて、刑事が日常、拳銃を携帯している(マンションの自室に持ち帰っている!)設定の非常識さ。
そんな本書を若書きの駄作から救い、忘れ難いものにしているのは、後半1/3の逃避行のシークエンス、あえていってしまえばラストシーンの演出(のみ)です。
主役を退場させ、“傍観者”にスポットをあててドラマを締めくくる、その手際。モノローグの一言一言が胸を打ち、「行き止まりの挽歌」というタイトルが、叙情味たっぷりの動かせないものになります。
ハードボイルドや警察小説というより、ノワール(当時、そんなジャンル区分はありませんでしたが)ですね、こりゃ。
背後の“悪”はそのままなので、梶のあとを継ぐ者を主役に、シリーズ化もできそう。ジェイムズ・エルロイなら、はなから新宿○部作構想でしょう。
できれば――とっかかりのバンドマン殺しの経緯は、犯人の告白をもっても釈然とせず(突発的な犯行と、事前に凶器を購入した行為の齟齬)、少し手を入れて欲しかったかな。
一筆書きの勢いと、細部の粗さ。栗本薫を採点しようとするとき、いつもこのへんの相克に悩まされますが、本書も例外ではなかったw

(付記)ひとまず、刑事を主人公にしたハードボイルドという観点から、ジャンル登録しました(2012・11・13)。

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