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ミステリの祭典

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怪奇探偵小説名作選〈2〉渡辺啓助集-地獄横丁
ちくま文庫

作家 渡辺啓助
出版日2002年03月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2025/09/01 14:10登録)
名にし負う「悪魔派」である。

とはいえね、いうほど怖くないしオゾましいというほどでもないんだ。不潔感の強い橘外男の方がずっとヒドい(苦笑)
この本は昭和12年に専業作家になるまでの初期作品のコレクションになる。「偽眼のマドンナ」「地獄横丁」「聖悪魔」といった著名作はこの頃の時期のものだったりするから、まあこれがお目当て。でもタイトル凄いなあ。「タンタラスの呪い皿」「血笑婦」とか、タイトルが実にアオってくる。健康に悪そうな駄菓子感が爆発しているぜ。

でもこの人、本質的には城昌幸とか水谷準と同類の、モダンな都会派の奇譚作家なんだよね。城みたいな象徴詩っぽさは薄いが、洒脱な語り口できっちりと話をまとめてくれる。予定調和感が城とか水谷よりも強いかもしれない。それでも義眼にこだわる「偽眼のマドンナ」とか、隠し撮りに興奮する「写真魔」とか、刺青趣味の「美しき皮膚病」やら、フェティシズムの香りが逸脱の味わい。基本的に男女の愛憎を軸に、洒落たドラマを構築しており、職人的なうまさはどの作品にも伺われる。

そこで、私は、こう云う鬱血した悪思想を散らすために「悪魔日記」をつけることにした。空想だけのことを文字に置き換えて、実際にやって退けたような堪能した気分になる−この放血療法はなかなか馬鹿にできない

と謹厳な牧師がその想像の赴くままに「犯した」悪徳を書いた「悪魔日記」をめぐる奇譚「聖悪魔」。

この人のためにあたしは妊娠し、この人のために、あたしは手や足をぶつぶつと切り離され、この人のために、あたしの斬りさいなまれた肉ぎれでつくった降誕祭菓子を、あたしの教会の男友達がみんな知らずに食べさせられるんだ

と悪虐のかぎりを「悪魔日記」には描き散らかすのだが....とんだ空想に牧師は振り回されることになるのだ(苦笑)

悪魔と地獄を主材とする文学ー即ち探偵小説は、善人の書くものであり、また善人の読むべき文学であるとの結論に到達せざるを得ない。(エッセイ「ニセモノもまた愉し」)

とね。「悪魔主義」とは都市生活者のための非情のライセンスだということだ。


(それでも陶芸家の芸道小説風の体裁をとった「タンタラスの呪い皿」だと、赤江瀑風の執念が覗いたりする。こういう方向性もあるんだろうなあ)

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