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ミステリの祭典

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脱出航路

作家 ジャック・ヒギンズ
出版日1978年05月
平均点9.00点
書評数1人

No.1 9点
(2018/09/28 00:22登録)
 まず最初に。ジャック・ヒギンズはいわゆる上手い作家ではないと思います。特にプロットが突出している訳でもなく、筋運びも強引で時に粗さも見られます(女性キャラが襲われるシーンを必要もなく挿入するとことか色々)。代表作とされる「鷲は舞い降りた」も、後に出た完全版を見れば発表段階で編集者にかなり削除を食らっています。コンスタントに質の高い作品を出し続けた訳でもなく、捻りやサプライズで勝負する作家でもありません。
 それでも「冒険小説の時代」と言われた80年代、ヒギンズはライアルやフォーサイス、マクリーンやフランシス、バグリイやイネスなどの並み居る作家たちに伍して、常にトップランナーであり続けました。魅力的なキャラクター達と情感溢れる文体とが噛み合わさった時、生み出されるストーリーに殆ど比肩する物が無かったからです。
 中でも「鷲・・・」と並び、マスターピースとして挙がるのが本書。第二次大戦末期の1944年8月、ブラジルのべレンから敗色濃い母国ドイツへ向け、連合国側の制圧下にある太西洋、8000kmの横断を試みる三本マストの帆船〈ドイッチェラント〉(江戸時代末期に勝海舟が乗った咸臨丸とほぼ同型)。その航海を軸に、ブラジル駐在ドイツ領事夫妻、船の乗組員たち、修道女団、合衆国軍退役少将とその姪、合衆国海軍艇長、ドイツUボート艦長、ドイツ軍ユンカースの機長、英国ファーダ島の女領主と艇長、そして島民たちなど、様々な人々の運命が縒り合わされていく・・・。
 その過程には強引さもありますが、圧倒的なのはラスト付近の盛り上がり。些細なミスを帳消しにするというか、まさしく怒涛のがぶり寄り。端役に至るまでキャラが立ちまくってます。花形役者の存在は「鷲・・・」に譲るとして、物語としての熱量はこちらが上なのではないでしょうか。
 「わしは行く。その気のある者はついてこい。その他の者は――地獄へ堕ちるがいいわい」
 冒険小説冬の時代と言われますが、ミステリ要素の強い「鷲は舞い降りた」や「深夜プラス1」はともかく、これほどの作品が絶版とか、ここまでコメント無しとかちょっと悲しいですね。フランシスなら「興奮」「利腕」のどっちかが読めないようなもんだけど。今のハヤカワだと仕方無いのかなあ。

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