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ミステリの祭典

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江戸忍法帖
忍法帖

作家 山田風太郎
出版日1960年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点
(2021/05/03 04:03登録)
 徳川五代将軍綱吉のもと権勢をふるう側用人にして大老格・柳沢吉保は、前将軍家綱の遺子・葵悠太郎の出現に驚愕した。彼はただちに子飼いの忍者「甲賀七忍」に密命を下し、四代さま御落胤の存在が世に知れ渡る前にその抹殺を謀ろうとする。果たして変幻自在の忍法を駆使する七人の妖忍と、一刀流の達人悠太郎の対決はいかに? そして悠太郎を慕う越後獅子の娘・お縫と、吉保の愛妾おさめの方の妹にして柳沢家の養女・鮎姫との恋の鞘当ての行方は? 鬼才・山田風太郎が描く会心の忍法小説。
 雑誌「漫画サンデー」に、昭和34(1959)年8月25日号~昭和35(1960)年2月22日号まで連載された、『甲賀忍法帖』に続く風太郎忍法帖第二作。この年前半には代表作の一つ『妖異金瓶梅』を完結させているが、それも含めて長編一本に短編五本と、37歳の壮年期にしては比較的少ない。次作が『飛騨忍法帖』である事を考え併せるとシリーズの方向性を探っていたという見方も出来、本書の貴種流離譚風な人物造形や物語展開もそれを裏付けている。だが流石にこの作者だけあって、つまらぬ作品には仕上がっていない。
 冒頭数章でいきなり葵悠太郎を守る三剣士が斃され、越後獅子のかたわれであるお縫の弟・丹吉も七忍の手に掛かる疾風怒濤の展開だが、これはストーリーを整理するため。お縫と鮎姫、二人のヒロインが目まぐるしく悠太郎と七忍サイドを行き来し、これに甲賀一族からの脱出を願う頭領服部玄斎の娘・お志乃も絡むその機微で、超人的な能力を持つ忍者たちが次々屠られてゆく。『甲賀~』とは趣を変えた常人の手になる忍者退治だが、相当以上に活躍するお縫を始め時の氏神的な助けもかなり入るので、〈悠太郎が強すぎる〉との指摘は当たらない。
 風太郎本人は「少年小説みたい」と称してあまり評価しなかったようだが、クライマックスとなる小塚原刑場での大殺陣は絵になるし、何度もお縫と入れ替わる鮎姫の清冽さや真摯さもベタだが良い。忍法帖にしては爽やかな結末もこれはこれで悪くなく、本サイト基準の採点では6.5点。お馴染み水戸黄門や助さん格さんも、準お助け役で出てくる。

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