home

ミステリの祭典

login
殺意のシナリオ

作家 ジョン・フランクリン・バーディン
出版日2003年12月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 E-BANKER
(2022/07/11 13:14登録)
「新機軸サスペンスの先駆」。単行本あとがきに解説者の新保博久氏がそう表現されている。
発表された年代を勘案すると、確かにそういう位置付けになるのだろうなぁーと思った次第。
原題”The Last of Philip Banter” 1947年の発表。

~新聞記者から現在は妻のお陰で広告代理店の社員となったフィリップのオフィスの机上に、ある朝置かれていたタイプ原稿。それは彼の過去数日の行動とこれからの出来事がまるですでに起きたことであるかのように書かれていた。アルコールに溺れる彼は、その告白が自分の書いたものなのか誰かが何らかの目的で書いたものなのか判断できない。しかもそこで書かれていた未来が実際に現実となっていくのを知り恐怖に囚われる・・・~

そうか。J.Fバーティンって「悪魔に食われろ青尾蠅」を書いた作者だったのか・・・
かなり突拍子もなくて、虚構か現実か判然としない世界観が目を引いた「悪魔に」に比べると、かなり取っつきやすいストーリーだった。
紹介文のとおり、物語のカギは「告白」という名の未来を予言するかのようなタイプ原稿と、それに接するうちにアルコールに溺れていき、現実と虚構の狭間を行き来することになる主人公。
これは恐らく合理的な解決はつかないのだろうと想像していた矢先、ふいに訪れた殺人(?)事件と、急浮上した探偵役が指摘する「真犯人」。
アレっ? もしかしてマトモなミステリー?
これがもしかすると一番のサプライズかも。そう、かなりマトモなミステリーなんです。
探偵役は精神科医が務めてるし、もちろん主人公フィリップの心の闇を探るという心理サスペンス的な要素も濃いのだが、探偵はちゃんと最後に真犯人を指摘してくれる。
ただ、問題なのはそれが今ひとつ「まともすぎる」ことか・・・。動機もそりゃそうだろうね、というべきものだし。
P.ハイスミスは本書を「簡単に忘れることのできない恐怖の小説」と評したそうだが、現代的な目線からはそこまでの「恐怖」はない。(それはまぁ時代性からも仕方ない)

ということで思いがけずマトモで良質なミステリーを読むことができたという感覚。
これならもっと評価されても良いように思える。
本作に影響を受けたという作家や作品も結構あるんじゃないかな?

1レコード表示中です 書評