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ミステリの祭典

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アップ・カントリー 兵士の帰還
ポール・ブレナー・シリーズ

作家 ネルソン・デミル
出版日2003年11月
平均点9.00点
書評数1人

No.1 9点 Tetchy
(2010/03/13 19:56登録)
ポール・ブレナー心の旅路、この小説を一言で称するならばこれに尽きるだろう。帯に書かれている『将軍の娘』続編という謳い文句は全く正しくない。今回現れるポール・ブレナーは『将軍の娘』で登場した彼は別人のように精彩を欠く。作者自身がポールの人と為りを忘れているかのようだ。

ヴェトナムに訪れ、手紙の主を見つけ出し、真相を暴く、これだけの話に1550ページが費やされる。物語の骨子はこの事件だが、実は内容としてはヴェトナム戦争時代の兵士の回想、それもアメリカ側とヴェトナム側双方の苦い思い出がメインなのだ。
『誓約』でヴェトナム戦争の過ちを大胆に描いたデミルはこの作品を以ってヴェトナム戦争に対して総決算をつけたのだ。だからミステリというよりも冒頭で述べたような回想録というのがこの小説を評するに当たり最適だろう。もちろん冒頭のブレナーをそのままデミルに置き換えれるのは云わずもがなだ。

結末は濁されたままで終わり、またブレナー自身の去就も詳らかにされないままヴェトナムを発つ辺りで物語は閉じられる。恐らくブレナーは二度とデミル作品には登場しないだろう。登場すればアメリカがどのような正義を行ったかが判るが恐らくはそこまでは作者は書くまいと思う。それが作者の、アメリカの良心だからだ。

旅は目的そのものよりも過程が大事、最後にデミルはブレナーの口からそう述べさせる。まさにこの小説の内容そのものを云い表している。

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