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ミステリの祭典

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真夜中に唄う島
昭和ミステリ秘宝

作家 朝山蜻一
出版日2001年08月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 クリスティ再読
(2021/10/09 19:43登録)
「昭和ミステリ秘宝」って扶桑社のこのシリーズ名がイイんだけども、朝山蜻一くらい「秘宝」度の高い「Theミステリ秘宝」な作家もいないですよ。評者ご贔屓だから、以前「白昼艶夢」取り上げて、「誰か他の方も、する?」なんて期待していたのですが、まだ誰も現れていないのが残念です。人並さん、しませんか?

で、この本は短めの長編「真夜中に唄う島」と、1976年に「幻影城」に連載された「蜻斎志異」シリーズ全12作を収録。朝山蜻一は旧「宝石」作家だから、名作はほぼ50年代に固まっていて、「真夜中に唄う島」は著者の集大成なスペシャル編的長編。これ書いた後は、沈黙して、幻影城での連載で復活。一応本名名義の短編集を間に出しているけども、ミステリ路線ではないらしい。

「真夜中に唄う島」は要するに「ソドム百二十日」。愚連隊5人がバーの女給を輪姦した後に、その女給が殺されいるのが発見された。追求から逃れるために5人+愛人の初枝は、富士一郎という男が南海の孤島に作り上げた「あらゆる倫理・道徳から解き放たれたユートピア」に逃亡することにした。その船中で初枝の愛人粕谷が毒を盛られて殺された...なんていうと、ミステリっぽいんだけど、ただの枠組み。著者の趣味(SM・ボンテージ・ラバー趣味、あと同性愛とファリック・ガールも?)を全面展開したユートピアとその崩壊を扱った観念小説みたいなもの。「ソドム百二十日」はちゃんとオチが付かないから妙なスケール感が出るのだけど、この小説は足早にオチが付いちゃうのがかなり残念。ユートピアがディストピアになるのって、珍しいわけじゃなしね。集大成でリキが入っちゃったせいか、この人独特の「SMの水木しげる」みたいなユーモア感が出ないのも難。


だけどね、「蜻斎志異」、これは、いい。ガチなミステリ専門誌として伝説的な「幻影城」に連載したクセに、「ミステリ、やる気なし」。実際、オチがあるのかないのかよくわからないような作品もあって、「オチがない」ことによって、不思議と「オチ」ているような、ヘンな感覚。「奇妙な味」と呼ばれるジャンルがあるんだけども、朝山蜻一はニッポンの「奇妙な味」の第一人者じゃないかしら?「風俗小説」の保守性を蹴飛ばした、ジャンル感無視のオリジナルなテイスト。星新一が近いといえば近いけど、さらにフリーダムで予定調和もガン無視。

たとえば、「怪談ホストビアズア」は淀橋浄水場を巡る因縁話があるのに、その三角関係の女性が惨劇を知って新宿西口をストリーキング(分かる?)して駆け付ける奇妙さ....あるいは「与之介一代」がトルコ風呂経営者と女占い師の腐れ縁な生世話物なのに、オチがアカンベエする「かぐや姫」な豪腕。「ブラックホール」がハモニカ横丁のママが抱える「ブラックホール」!ここらへん、読んでいて思わず吹き出すくらいの奇想天外。こんなヘンな話を書ける作者、いないと思う...いや、マジにだって。
しかし、話のヘンさの中にキラリと光る情愛の深さが見えて、ついついほろりとさせられるのも、この著者らしさ。新婚初夜に夫の元を飛び出た新妻の狙いが「最良の妻になるために、100人の男というものを知るため」な「一〇一夜物語」の、あるいは著者自身を投影した「初恋」の純情さに、妙に打たれる...

まさに、「秘宝」の名に恥じないです。素晴らしい。評者は朝山蜻一が描く「女性の強さ」が本当に好き。男目線のエロ作家じゃ、絶対ありませんよ。

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