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ミステリの祭典

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ネームドロッパー

作家 ブライアン・フリーマントル
出版日2008年06月
平均点10.00点
書評数1人

No.1 10点 Tetchy
(2009/08/12 19:51登録)
旅先での一人旅の女性とのアヴァンチュール。そんな珍しくもない、誰にでも起こりそうな情事が思いもよらぬ災厄をもたらす。そんなありきたりな設定に被害者を身分詐称を生業とする詐欺師に持ってきたところにフリーマントルのストーリーテラーとしての巧さがある。

そして本作ではフリーマントルの手による法廷ミステリの側面を持っているところも読み所だろう。
法廷シーンで繰り広げられる原告側、被告側双方がやり取りする揚げ足の取り合い、トラップの仕掛け合いはものすごくスリリングである。言葉の戦争だとも云えよう。
元々フリーマントル作品には上級官僚が自らの保身、自国の保身のために行う高度なディベートが常に盛り込まれており、すごく定評がある。このフリーマントルのディベート力が裁判という舞台に活かされるのは当然であった。逆に云えばなぜ今までフリーマントルが法廷物を書かなかったのかが不思議なくらいだ。

そして他人の名を借りて身分を偽り、それが偽造パスポートや偽造運転免許証、さらに社会保障番号を知ることで他人に成りすましていたジョーダンが本人であるハーヴェイ・ジョーダンとして訴えられることで、改めて借り物の人生を過ごしてきた自らについてアイデンティティの再認識が成される。だからこそのあの最後のセリフが活きるのであろう。

最近のフリーマントル作品は皮肉な結末が多かったが、本作では非常に胸の空く思いがした。こういう小説を読みたかったのだ。
近年のフリーマントル作品の中でもベストだとここに断言したい。

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