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ミステリの祭典

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密やかな結晶

作家 小川洋子
出版日1994年01月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 猫サーカス
(2021/01/19 18:08登録)
舞台は閉ざされた島。リボン、鈴、エメラルド、切手、香水、鳥...。何かが一種類ずつ消えていく。実体としてなくなるのではなく、人々の記憶から消滅するのだ。もしそれが手元にあれば、捨てたり燃やしたりしなければならない。消えたもののことを覚えている人たちがいる。彼らは秘密警察による「記憶狩り」で捕らえられ、連れ去られる。かくまう組織もあるが、秘密警察の力は圧倒的で、逃げ延びるのは難しい。島は不穏な空気に満ちている。父母を亡くし、一人で暮らす小説家の「わたし」は、フェリーの整備士だった旧知のおじいさんと助け合い、励まし合って生活をしている。担当編集者のR氏も記憶を失わない人だとわかる。「わたし」はおじいさんと力を合わせ、R氏を自宅の隠し部屋にかくまう。「わたし」とR氏の交流は密かに続く。やがて「小説」が消滅する日が来る。本が焼かれるが、それでも「わたし」は物語をつむごうとする。それは、声を失ったタイプライターの話だった。この作品は寓話的な小説である。そしてアンネ・フランクの「アンネの日記」も想起させる。ナチスの理不尽な迫害を逃れ、隠れ家で書き続けた日記は、記憶をつなぎとめ、時空をこえて未来へつながる営為だった。秘密警察に引きずられてゆく女性が叫ぶ。「物語の記憶は、誰にも消せないわ」。原稿用紙の束を前にしてR氏が言う。「ますめの一つ一つに言葉が存在しています。そして書いたのは君だ」結末を破滅と捉えるか、解放とみなすかは読者に委ねられる。そして記憶とは何か、物語は誰のために存在するのかという問いもまた、読者に残される。

No.1 7点 ジャバウオック
(2009/08/06 21:20登録)
不思議な世界観が良い。

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